| やさしい気持ち +1+ |
| 戦場の斬姫だって恋をする。 そんな言葉を作り出したのは、誰あろうイザーク王国王女のアイラであった。 流星剣を繰り出すその姿はまさに『斬姫』。 しかし敵国の兵士たちから恐れられたアイラも恋をした。元々、美しく気高いその姿に心奪われるものは多かった。 そんな彼女が選んだ相手。それは誰あろう、同じ軍にいたデューという少年だったのだ。 この事実に人々はそれは驚いたものだ。 何しろ、その当時からデューよりも女のアイラのほうが背が高かったりしたのだから・・・・・・ それでもこの二人は結婚ののちに双子をもうけ、『戦場の盗賊夫婦』と呼ばれることになろうとは・・・まあそれも、神様の悪戯ってことでしょうね。 そして、その二人の子・ラクチェも年頃の娘に成長した。 戦場を駆けるその姿は母・アイラの生き写しであったし、なおかつその気高さのある美貌も軍のなかで注目の的となる。 しかしラクチェはそんなことには興味なさそうに振る舞い、双子の兄であるスカサハとともに今日も戦場を駆けぬけていた・・・・・・ 「てやああああ!!!!」 気合一閃とともに敵軍の兵士の体が、どうっと地面に倒れた。 それを確認する間もなくラクチェはすぐに体を反転させ、自分を狙っていたボウナイトの弓をよけ、そのまま距離を一気に詰めた。 剣のいくつもの閃き。 それこそが、この少女とアイラを親子と証明するひとつのものであった。 高速で突き出されるいくつもの剣のひらめき・・・それはまるで星の・・・流星のようだからだ。 それが流星剣と言われる剣技。そしてこれこそがラクチェを『戦場の斬姫』といわしめる証明のようなものであった。 その攻撃に馬の上からボウナイトが地面にまっさかさまに落ちていった。 「・・・ふぅ・・・・・・・」 まわりにいる敵をあらかた片付けて、ラクチェの闇雲に動いていた体が止まった。 軽く息を吐き、それから体にできた細かい傷に思わずしかめっ面をしてしまう。 ほんの少しずつの痛みだったが、それがなんとなく『自分がまだまだ』だということを思い知らされてしまう。 話に聞いた母ならば体に傷ひとつつけずに戦いに勝利したことがあるというのに。 「次の波がくるまえに手当てしなくちゃ・・・・・・・?」 溜息をついて応急手当をしようかと思った矢先に、パァッと柔らかい光がラクチェの体を包み込んだ。 その光によって腕や足、それに顔にできてしまった傷がどんどん塞がっていく。 それを見て、それからこれは魔法の光だということに気づき、ラクチェはふと顔を上げた。 すると、少し遠くのほうで小柄な少年が自分のほうに走りよってくるのが見える。 「コープル!」 その姿に驚いて、ラクチェが声をあげるとその少年・・・コープルが息を切らしながらやっとラクチェの傍まで走りよってきた。 手にはリブローの杖が握られている。先ほどラクチェを回復したのも彼の魔法なのだろう。 走りよってきたのはいいものの、大きく肩で息をしたまま俯いてしまっているコープルにラクチェが剣をしまい・・・敵の姿はなかったからだ・・・肩に手をおいた。 「大丈夫なの? だめじゃない、体力ないのにセリス様の傍からここまで走ってきちゃ・・・」 「す、すみません・・・・・・でも、ラクチェさんが・・・・・・・・・ほかの皆様より、先行していたし・・・それに・・・敵に斬りつけられていたから・・・・はやく、回復しなくちゃって・・・思って・・・」 「それはそうだけど・・・! 怪我は? コープルは怪我はしてないの?」 だいたい、魔法(回復)が使えるプリーストたちは戦闘能力が皆無に等しいので本隊であるセリスの側にいることが常であり、ラクチェたち先行部隊・・・切り込み部隊たちからは、走ってくるだけでもかなりの距離があった。 それも、敵陣の真っ只中にいるラクチェの側にくるまでの危険は大きい。 おまけに、回復の魔法は自分には使えないのだ。 そのことに、コープルは大分楽になったのか顔を上げて、にこっとラクチェに笑いかけた。 「平気、です・・・粗方、ラクチェさんたちが片付けていたし・・・・・・僕も多少なりですが、敵の攻撃はよけられるし・・・」 「もう、心配させないでよ・・・でも回復してくれてありがとう、コープル。おかげで体の傷、全部治っちゃった。」 そう言ってラクチェはふふっと笑って見せた。 その言葉にコープルも笑顔を返す。 「あ、でもあまり無理はしないでくださいね。もうすぐこっちにアレスさんたちもやってきますし・・・」 「心配しなくても平気だってば。敵の十人や二十人、囲まれたって私は負けたりしないんだから。」 ラクチェは軽口で言っているようだが、それが本当だったりするのだから怖いものである。 だがコープルはすぐ真剣な顔になって、 「駄目ですよ! ラクチェさんだっていつも勝てるってわけじゃないんですから。」 「う・・・・・・わかってるってば、もう・・・」 それは常々、スカサハやヨハルヴァから言われていることであった。 防御力が低いのだから前に出過ぎるな、と。まあ太陽剣(敵のHPを吸収して自分の生命力にかえる)もあるのだからその心配も低いのだが・・・ 万が一、ということがあるのはわかっている。 だがなかなか動けないのはラクチェにとって歯痒いものでしかない。 それに、もっと強くなりたかった。 母のように、母を守った父のように。死んでいったあの二人に恥じないためにも。 そう思っていたラクチェにほんの少しだけ苦笑して、コープルは口を開いた。 「だって、ラクチェさん、女の子なんですから。」 その一言に、一瞬、ラクチェがとまった。 それからゆっくりと、目を丸くしてコープルのほうへ振り向く。 コープルは、にっこりと笑っていた。 「おーーーーーい!! コープルーーーーーーこっちにもリブローたのむぅぅぅぅ!!!!!」 その沈黙を破るように遠くのほうからレスターの大声が聞こえてきた。 振り返り、はぁい!! と大声で呼びかけ返してから、コープルはラクチェに頭を下げるとすぐに呼ばれたほうへと走り出していた。 一人残されたラクチェは、呆然としてコープルの後姿を見送っていた。 女の子だから。そんなこと言われたこと一度もなかった。 いつも防御力が低いからだとか、そんなもっともらしい理由をつけられて忠告されていたのに、コープルの言葉だけは違っていた。 そのことになんとなくラクチェは、今まで感じたこともないような不思議な気持ちになっていた。 <+2+> |