『きみがきかせてくれるおと。』




(魏の居城。
 君主『達』の部屋。つまり、曹操兄弟がいる一室である。
 昼下がり、執務の休憩にと今回、お茶と茶菓子を持ってきたのは息子である曹昂(いつもは奥様や、女官達の仕事))

 獅子猿曹操:ああ、そうだ。子脩(お茶を飲んでる)。
 曹昂:はい?(そのお茶セットを準備してる)
 曹操:お前、久しぶりに二胡を弾いてくれないか?

(しばしの沈黙)
(自分用のお茶を出そうとしていた曹昂。
 父親の発言の意味を理解するのに時間がかかり、お茶を入れようとしていた体勢のままで固まること十秒。)

 曹操:(傾けられているのを止めて)茶が勿体ないぞ。
 曹昂:……え?(我に返る) は、な、何を言い出すんですか父上!!
 蒼天:ほう、こっちの子脩は二胡も弾けるのか。
 横山:ああ。獅子の話では中々うまいと聞いているが。
 曹昂:そ、そんなことありませんよ!!(必死で否定)
 masaki:いいや。俺も何度か耳にしているが、子建はまあ別としてもだ、中々聞き応えのある音をしている。
 真島:(何も言わず茶を啜っている)
 曹操:久々に聞きたい。いいだろう?
 曹昂:よくありませんよ! 私の二胡なんて子建に比べたら子供の手並み程度ですし、それなら母上に弾いてもらったほうが余程…!!
 蒼天:まあこれも一興だ。俺も聞きたいな。
 横山:その点に関しては俺も賛成だ。
 masaki:丁度、仕事も粗方片付いたしな。
 蒼天:室を用意させるか。あそこが空いていただろう。ほら、城のあの部屋。
 曹操:おお、あの天蓋つきのところか! あそこなら秋の庭も見渡せていいな!

(わいわいがやがやと楽しそうな父(しかも一同)。
 どうすればいいんだろうかと呆然としている曹昂。このままだと有無を言わされずに披露させられることになる。
 何とか打開策はないものかと今まで積極的な発言のない真島曹操のほうへと振り返る)

(が。)

 真島:ああ、これを漢にいる『曹操』のところへ届けてやってくれ。
    あいつのことだから仲間はずれにしたら後々面倒だろうしな(書簡をしたためていた)。
 使者:ははっ!
 曹昂:誰も助けてくれないーーーーーー!!!Σ(;□;)

(悲鳴が室内に響くが、そこにいたのは曹操たちのみだったので結局救出失敗。
 イヤだなんだと渋る曹昂を、五人という大人数で宥めて宥めて言い聞かせて。

 そして二胡を披露することになってしまう(曹昂涙目)。)




(その日の夕暮れ。
 なんだかんだと準備の整えられた舞台。
 秋の色彩を見渡すことのできる東屋である。そこに即席の座が用意されている。)




 曹昂:…………父上だけだと思ったのに……(すっごく憂鬱)

 卞皇后:子脩〜、頑張って〜(笑顔)
 曹節:大きな兄様〜(超笑顔)
 曹沖:兄上の二胡、久しぶりに聞けるから楽しみです!(ニコニコ)
 曹彰:だよなだよな! 俺も昔はよく聞いてたから、最近は聞けなくて寂しかったんだよなぁ…
 夏候惇:脩ー、早く始めろよー。
 夏候淵:(惇の横で静かに湯飲みを傾けている)

(その他、なんだか武将、文官。しかも名だたる魏の重鎮たちまでもが揃い踏みしている。
 みんな仕事はどうしたんだ! と聞かれそうだが、今日の分は全員既に完了済み)

 曹植:……兄上、頑張ってください…(ぽん、と曹昂の肩を叩く)
 荀ケ:すみません。あまり話が大きくならないようにと殿には言い含めておいたのですが。
 曹丕:この騒ぎの上に、父上たちが自慢しまくってな(溜息)

(我も我もとやって来て、いつの間にかその場は宴のような有様だ。
 さすがに酒は入っていない。
 みんな、それぞれ持っているのは茶にお菓子の類である。)

 曹昂:…私、逃げてもいいかなぁ…
 曹植:いえ、今回ばかりは逃げるのは父上がお許しにならないと…(気の毒そうに)
 曹丕:楽しみにしていた節が強いからな。兄上、今日ばかりは我慢してやれ。
 曹昂:あぅぅぅぅ……(半ば涙目)
 曹植:その…これが慰めになるかはわかりませんが、後で私も琴を披露しますから…(さすがに一人でやれという非道なことは出来なかったらしい)
 曹丕:母上にも久方ぶりに舞を披露してもらう手はずになっている。
 荀ケ:そのあとは宴を開いて、という予定です。
 曹昂:…それで私の下手な二胡の記憶がうやむやになってくれたらいいんだけどなぁ…

(溜息。
 ただし、曹昂の下手発言に曹植と曹丕が揃って顔を見合わせ、目配せをする。)

 曹丕:兄上。
 曹昂:…ん?
 曹植:兄上の二胡が下手などど、誰も思いませんよ。
 曹昂:……そう、なの……?
 曹丕:少なくとも俺たち兄弟妹もそうだが、父上や母上も、兄上の二胡は好きだ。
 荀ケ:ああ、昔から聞かせていただいている私もそうですよ(にっこり)
    今回の騒ぎは抜きにして、とても楽しみにしているのですから。
 曹植:だからそんなにご自身を卑下なさらないでください、兄上。
 曹昂:………………うん(こくり)

(楽しみにしていてくれる人がいるなら、と決死の覚悟で舞台に上がる曹昂。
 一瞬、東屋のざわめきが大きくなり、それから静寂が包まれる。)

(静寂が痛いなぁ、と思いつつ、二胡を手にして座る。
 準備を整えてからちら、と顔を上げると、弟妹たちがいる席へと戻る曹丕の姿を見つける)

 曹丕:(気がついた)…………(ふぅ、と唇の端を緩める)

(なんだか励まされているようで(大丈夫だと言われているような)、苦笑が浮かぶ。
 それで落ち着いた曹昂が、二胡の弦へと弓を当てて、)



(弾く。
 音が、響く。
 特別うまいとは言えない。本当に手慰みのような、そんな程度のものだ。
 ただ、音がなんとなく優しい。
 丁寧に丁寧に、まるで頭を撫でられるようなそんな感じのする一音、一音。)



 蒼天:………(聞きながら)…うむ。良い音だな。
 masaki:あいつの人柄が表れるような音だな。
 横山:特別とは言い難い。が、この音は誰にでも出せるようなものではあるまい。
 曹操:だろう(ふふん、と得意げ)
 真島:なんで兄上が得意げなんだ。
 漢そそ:言うてやるな。あいつはただ単に息子自慢がしたいだけだ。

(ぼそぼそと話し合う曹操たち。
 ちなみに全員の息子であることは言わずもがな。)

(やがて演奏が終わり、最後の一音が長く響いて……消える。
 そこでほぉ、と息をついて立ち上がると、一礼をする曹昂。)

(だが、静かだ。
 本当に静かで、下手すぎてみんな呆れているんだろうかと不安になって顔を上げる曹昂。
 見ると、その場にいた全員が、同じほうをみて複雑そうな表情をしている。
 曹昂のほうを見て、苦笑を浮かべて申し訳なさそうにしている人もいた。
 何事だろうかと曹昂が、みんなの視線の先へと向かう。)

 曹昂:…………あ。


 曹植:………(すぅ、と寝息をたてている)
 曹彰:、が……(近くにたホウ徳にもたれかかって、大口を開けて寝ている)
 曹節:…(そんな曹彰に寄りかかってスヤスヤ)
 曹沖:……くぅ……(曹節の膝枕で、眠りについている)
 曹丕:……………(腕を組んだ体勢のまま、微動だにしない。ただし、眼も開けていないが)

 夏候惇:悪いな脩。
 夏候淵:こいつらを起こすのが忍びなくてな……
 卞皇后:ごめんなさいね。あなたの演奏はとても良かったのだけど…(苦笑)
 曹昂:………(眼を真ん丸くして)

(曹兄弟妹、下の子たちが全滅仕様である。
 皆、気持ちよさそうに眠っていて起こすのが忍びなくてその場にいた全員が静かにしていたらしい。)

 荀ケ:そういえば、下の皆様はあなたの音が子守歌がわりでしたね。
 曹昂:あ、はい…でも……
 荀攸:条件反射なのでしょう(クスクス)
     子供の頃の記憶というものは、大人になっても変わるものではありませんから。

(昔。
 小さな弟や妹たちを満遍なく世話していたのは誰あろう曹昂である。
 寝かせてやる傍らで、音楽を聴かせたり、歌をうたってやったりしていたのだ。
 その条件反射で、眠ってしまったらしかった。)

 曹昂:……………(呆然、でもなんだか懐かしさがこみ上げてくる)

(弟や妹たちの側まで歩み寄り、片膝をつくとそれぞれを見る。
 それから、ふ、っとおかしそうに笑う曹昂。)

 曹昂:……もう、みんな、しょうがないんだから…!(でも嬉しそう)

(その後は、まあ起こすのは可哀想だったのだけれどしばらくして曹操が、次は曹植だ! と言い出したり、
 卞皇后の舞に浮かれたりといろいろと騒ぎになったようで。)





<おしまい>