「…俺の恋人を、紹介しよう。」

  印象に残るのは、砂漠の大地の色をそのまま溶かしこんだかのような深い色。
  幾年の時間を閉じこめた琥珀色の髪。

  何よりも、八重歯を覗かせた悪戯盛りの幼い子供の無垢なままで、笑う顔が。








  令明さんの場合。-あなたの恋人を皆さんに紹介してあげてください。-








  よくぞ、孟起に聞かないでおいてくれた!!

  ……いや、あいつの場合は嬉々としてあることないこと、ないことないこと、何を言い出すかわかったものではないからな。
  さすがに俺としても、自分の品性を人様に疑われるような発言は聞きたくないぞ。

  ……………あいつの場合は、悪気があるんじゃなくって、天然で色々と言い出すあたりが始末におけん。
  
  怒るに怒れなくなるからな……うん。
  まあ、とにかく、俺から言うことにしよう。

  孟起の紹介で良いんだったな。

  名は、馬超。字は孟起。
  西涼では『錦馬超』などと呼ばれているな。
  確かにあの武は、誰もが錦と讃えるような煌めきがある。
  俺としては嬉しいかぎりだ。

  俺の名は龐徳。字は令明。

  孟起は俺のことは『龐徳殿』と呼ぶことが多い。最近はようやく令明、とも呼ぶようになってはくれたが……
  ……前は年齢の差、昔から供にいるせいもあってかと思ったのだが、恋人となってからは照れのほうが先に来るらしい。
  
  常はそうでもないんだが、二人きりともなると途端に呼ぶのを躊躇う。
  
  俺としては少々傷つくことではあるがな。

  孟起とはもう付き合いも長い。
  あれが幼少の頃に俺が馬騰殿のところへ部下として入ったから……もう二十年か。
  
  その頃にはまさか目の前の小さな子に、恋をし、恋われるとは思ってもみなかったがな。
  あの時の俺にそう言っても、鼻で笑われるか卒倒されるような代物だ。
  ……まったく、懐かしい。

  そうだ、孟起とはもう随分と長い付き合いになる。

  最初は弟のように思っていたし、今もその気持ちはどこかにあるのかもしれない。
  孟起も俺を兄のように慕ってくれていたしな。
  
  別に今の関係を嘆いているわけでも、後悔しているわけでもない。
  ただ、懐かしいと思うだけだ。

  俺はあの頃は孟起のことを「若」と呼んでいたしな。
  
  あいつを一人の武将として認めてからは「孟起」と呼ぶようになった。
  今もそれは変わっていない。
  ひそやかに呼ぶ名でさえ、そうだ。

  いつそうなったのかは……孟起も俺のことは令明と呼ぶようになったな。
  
  いつの間にか、そうなっていた。
  俺はそれでいいと思うし、あとは孟起がもう少し自然に俺を呼べるようになったらそれで満足だ。

  

  孟起と恋仲になったのはどうしてだったか……ああ、確か孟起が俺に……


  
  と、これを言うと孟起が怒り出すんだったな。
  さすがに俺も一喝を受けたあとに二度ほど武力が10まで上昇した馬超の特攻など受けたくないので、黙秘権とさせてもらう。

  その時のことは、俺と孟起が知っていればいい話だしな。

  …別に出し渋っているわけではないぞ。
  ただ、俺も命が惜しい、というだけだ。

  この話題を出すと、それはそれは孟起が怒り狂うからな。
  先にも言ったが、武力10の突撃は痛いどころじゃないんだぞ。

  まあ、そんなことは言ったものの、孟起も今の関係には一応満足してくれているようだ。

  いつもはすることは変わらない。
  鍛錬をしたり、たまの仕事を片付けたり、夜盗を退治しにいったりと……甘い雰囲気はそれこそないな。
  
  夜は別だが。

  ……? そこまで言ったヤツはいない?
  本心だがな。
  夜になると、一緒に食事を取ったり、その日一日の話をしたりしている。

  あとは寝台の上で口づけをしたり、色々と…………

  …想像どおりだ。
  するのは当たり前のことだろう?
  恋人なのだし。

  …さすがに、馬騰殿には知られてはならないことだがな。
  
  まずいどころの騒ぎではないだろう。
  馬家の嫡男、跡取りが己の部下と逢い引きしているうえに、恋人同士とくれば……大殿のお怒りが目に浮かぶかのようだ。
  そのことは孟起も知っていて、なおさら外では気にしているだがな。

  そのせいかもしれない。
  
  夜にはよく甘えてくる。
  抱きしめ合うだけでも蕩けるように笑っている。

  砂漠の大地をそのまま映し込んだような瞳が、蕩けていく様は見ていて圧巻されてしまう。



  いとおしい、とも思う。



  ……ふむ。少し喋りすぎたようだな。

  ……? おかしなことを言うヤツだな。聞きたがっていたのはお前達のほうであろう。
  俺は今の関係に何ら不満はない。

  知られてはまずいとは思っても、今のこの絆を断ち切れるほど、軽いものでもない。

  繋がった先は俺のここ(心臓)とともにある。
  もしこれが断ち切られれば、俺は俺の『死』となるだろう。
  
  ……それほどの、ものだ。

  孟起の思いを疑うわけでも、計るわけでもないが、俺のことを思っていて欲しいとも思う。

  思ってくれている、と自惚れてもいるがな。
  そのくらいはわかる。
  何しろ孟起の感情や心は手に取るようによくわかってしまうんでな。

  幼少の頃から側にいたせいもある。

  おかげで、孟起は隠し事が出来ないと駄々をこねているようだが、仕方あるまい?
  それに孟起も、そう易々と感情を抑えられるタチではないからな。

  そのあたりについては、あいつ生来のものであるから諦めたほうが良いとも思うときがあるが。



  だからこそ、俺は今のままを臨む。
  あいつの成長をこの瞳に焼き付けながら、焦がれながら、愛しながら、側にいられたらそれで構わない。
  
  そうして、孟起の臨むようにしてやりたいとも思う。

  俺が出来ることをあいつにしてやりたい。
  俺が、俺にしか出来ないことを。



  ……さて、それではそろそろ俺は行くとしよう。
  
  一方的に喋ってばかりですまなかったな。
  あまり言う機会もないせいか、加減が出来なかったようだ。

  …これから?

  いや、孟起の話をしていたら、あいつに会いたくなった。

  



  会いに行ってくる。




 <終わり。>