「…私の恋人を、紹介します。」


  慣れない。
  慣れるわけなんてない。こんなこと、予想なんて出来るわけがない。

  ああ、でも後悔していない自分がいるのもまた、真実でしかなくて。







  曹昂の場合 −あなたの恋人を皆さんに紹介してください。−








  ……あの、こういうことを人前で言うのはあまりよくないと思うんですけど……

  いえ、その、子桓が嫌だとか、紹介したくないんだとかそういうことじゃなくって…!!
  ひ、ひとに、紹介する、なんて……
  聞いてて面白いんですか? 人の……その、こ、こ、恋の…話に、なるわけ、だし……

  ……楽しいんですか…?

  あ……そういう、ものなんですね……
  すみません、私はそういう経験があまり……
  ………わ、わかりました。
  
  何を言っても良いんだったら。拙いだろうし、面白くもないでしょうけど、我慢してくださいね。

  あの、何をどう喋ったらいいんでしょう。
  子桓のこと…は、わかるんですけど、いったい何をどう…?

  ……そうですね、まずは名前から。

  名前は曹丕。字は子桓。
  魏国の次代君主であり、父の後継でもあります。
  
  仕事は私なんかよりも出来ますし、頭の回転も速い。
  先見の目もずば抜けて、それからその先見に対する処の仕方も、子桓のほうが数段上をいっていますから。
  兄としては嬉しい限りですよ。
  弟の成長を日々、目にすることが出来るのはこの上ない喜びです。

  ……こ、いびと、としては…少し、悔しいかなぁ。うん。

  私のほうが年上なのに、子桓には助けられることが多くて……対等にありたいと思うのに、どうしても私は不器用で…

  そのことは子桓には言っていませんよ。
  言うと、彼はものすごく困ると思いますから。

  …? え? 困るって、おかしいですか?

  怒るほうが自然…なのかなぁ? 私はそうは思いません。
  ……子桓のあの顔は昔からなんですよ…?
  彼が怒っているのか、困っているのか、区別できないくらい離れてたわけではありませんから。

  何しろ子桓とは、彼が生まれた時から一緒にいます。
  一番はじめに腕に抱っこしたときは感動しました。
  はじめまして、って、言ったら彼も笑ってくれたような気がして……生まれたてで、わからないかもしれないんですけどね。

  ……………………すみません。

  その、なんていうか……彼と、こういう……あの…こいびと、になるとは…思ってもいなかったので。
  正直、少し、恥ずかしいです。
  困るとか、そういうのは今は、全然。


  …困る、というのならば…立場、や私と彼の血、そのものに。

  子桓から告げられた時は、酷く混乱して彼にも酷いことを随分と言ったものです。
  …血や、立場…国、そういうものを盾にして、彼の気持ちも、自分の気持ちも、全部否定して。
  
  ………それでも、ここまでやって来てくれた彼には、今は感謝しています。


  でも、その…やっぱり、恥ずかしいなぁ……

  皆さんだって、自分の恋人を紹介してくれ、って言われたら、恥ずかしいでしょう?
  なんだか酒の肴にでもされてる気分です。

  絶対、これを聞かれたら、叔父あたりが大笑いしてそうですもん。
  あとは郭嘉殿あたりとか。
  ……無表情で面白がってるんですよ? あの人。

  ………あ、でも…子桓に、聞いてくれなくて良かったかもしれません。

  彼なら嬉々として口外してたんだろうな。
  …うん、絶対、してる。
  
  しょうがない。
  今回は私で良かった、ってことで、まだ何か言ってほしいというんならお付き合いしますよ。

  …彼を、普段は「子桓」と、私は呼んでます。

  それから、「あのこ」とか、そういうふうには極力呼ばないようにしているんです。
  実はものすごく気にしてて…ちょっと口を滑らして言うと、睨むんですよ。
  昔からの癖なんだから大目に見てくれてもいいのに…

  私のことは、「子脩」と。
  たまに巫山戯てたりすると「兄上」って。絶対面白がってますよね。
  
  だいたい、なんで抱き合ってるときに言うか……………っっっっ!!!!

  す、すみませっ!
  今のは忘れてください! 
  つい、あの、その……!!!!

  ……う、うぅ……

  ……あと、ですか?
  家族と一緒にいるときは、さすがに昔のとおりに、です。
  
  一応、吃驚させてしまうと思うので、私たちのことは秘密にしてあるつもりなんですけど……父上は、随分と前に気付いてたみたいです。
  あとは母上も。
  …あ、母上、というのは、卞皇后のことで。

  気付かれていたのは、さすがは両親、と言ったところでしょうか。

  子桓も吃驚してましたよ。
  でも、父上が気付いてたのには少し納得してたみたいです。

  さすが父上、って言ってましたから。

  …あまり、さすがと言いたくないんですけど、ね。
  
  私たちに対しては何も。
  ……父としても、王としても、多分、怒るどころの問題じゃないはずですけど…何も、言いません。
  見守ってくれてるのはわかります。
  …その上で、どうなっていくかを…見ていてくれていることも。

  ………やっぱり父上にも母上にも敵いません。私もまだまだ、ですね。

  弟や妹たちには、ばれてない、と思います。むしろ、思いたいです。
  うん、ばれてない……多分。

  
  二人でいるときは特に何も変わったことはしていません。

  執務の話をしたりもしますし、仕事のことで意見を交わしたり、たまに口論になったりもするんです。
  ……私だって言うときは言うんですよ?
  
  酒を酌み交わしたり、おいしいものを食べたり。

  …たまの休日には、二人で部屋に引き籠もって、昼寝ばかりしていることもあります。
  実は外に出るのが億劫な時があって、そういうときは、もう床の上の干したばかりの布をひいて、二人で眠ったりなんかして。

  ………あとは、子桓がお腹がすいたと言ったら、私が何か作ったりもしてます。
  
  特に出かけたい用事もないときは、大抵そんな感じなんです。
  時間の無駄遣いって、怒られてしまいそうですけど…贅沢をしていると思っています。
  
  二人で一緒にいる贅沢、ですよ。

  でも私が贅沢をしているだけなのかもしれません。
  どこか行きたいのなら、って子桓にも聞いているんですけど、彼もこのままでいい、と言ってくれるんで甘えちゃってます。

  うーん…もし、いいのなら。

  いつか、子桓と一緒にゆっくり旅行でもしたい、かも。

  二人っきりっていうのがなくって。
  家族と一緒にいったりするのは勿論なんですけど、立場上、絶対に護衛は必要ですからね。

  ただ………一日、だけでもいいから、二人だけで。

  
  結局、私の我が儘になってしまいますね。
  子桓がどうしたいのかも聞きたいかな。

  …子桓のしてほしいことを、してあげたいっていうのが、今の私の気持ちです。

  私はどうも…慣れて、なくて…何をしてあげたら喜んでくれるのか、とか…全然わからないんです。
  だから、ちょっとずつ。
  少しずつ、子桓が嬉しい、と思うことをしてあげたい。

  彼が笑ってくれたら、私はそれで嬉しい。

  …………がんばり、ます。
  


  …なんだか紹介というより、私の独りよがりな話なって申し訳ないです。



  やっぱり恥ずかしいですね。
  今も心臓がバクバク言ってますから。
  みんな、本当にこういうのを話したりしてるのかなぁ……私は、苦手です。

  

  ………? あ、あれ?

  みなさん、どうし、



  (以下、音声切断にて。)



 <強制終了ですよー。はーい、みなさーん、邪魔しないようにてっしゅー!!(笑)>