「………………儂の恋人を、紹介する。」
腹立たしい。
義を語るその口も。
愛を伝うその声も。
何もかもが腹立たしく、苛々して、たまらない。
政宗の場合。−あなたの恋人を皆さんに紹介してください。−
何故儂がこんなものと関わり合いにならねばならん…!!
……恋人の紹介?
あんなやつ、恋人でもなんでもないは、馬鹿め!!
だいたい、こいびと、などと口にしたのはあいつだけであって、儂は承諾した覚えはこれっぽっちもない!
…? それじゃあ話が進まない?
知らん!
そんなもの、お前達の都合であろう! だいたい儂がこんな馬鹿みたいなことに……
…………ああ、もう!
わかった! わかったから、話をややこしくするな!
兼続と小十郎などというダブルコンボなど、考えただけで寒気がするはっ!
応えれば良いのだろう。答えれば。
それで話がすむのならもう良い。
儂もバカバカしくなってきた。怒るのが一番疲れるのだぞ、馬鹿め。
……あいつの名前は、直江兼続。
山城などという名もついているが、おぬしらには面倒であろうし、そんな尊大な名など覚えても役にも立たんしな。
忌々しいことに上杉の軍師だそうだ。
あのような義馬鹿によく務まるものだ。
謙信の物好きならわかるが、義息子もよく承諾したものだと思うぞ。
あんなのが四六時中一緒にいるのかと思うと五月蠅くて好かん。
だいたい、あいつはいつも義だ、義だ、と五月蠅い。
真面目に五月蠅い。
いつかあの口を糸と布団針で縫いつけたいくらいだ。なんだったら今日中にでも構わんが。
………? 紹介しろと言ったのはお主らのほうではないか。
だったら好きに喋らせろ。
文句を言うのであれば儂は帰るぞ。
このような児戯。付き合ってやるだけでもありがたく思うがいい。
……あのようなヤツ。烏賊で十分じゃ、烏賊で。
あの白い兜など、まったくもってそのとおりではないか。
気が向いたら、かねつぐ、と呼んでおる。
……別にあいつを喜ばせたいわけでもないし、認めたわけでもないぞ。
ただ、な…呼んだら、返事をする。
いつもいつも、一瞬、度肝を抜かれて目を丸くするくせに、そのあとでいつも嬉しそうに笑っておるわ。
馬鹿の一つ覚えのように、変わらない。
少しくらい慣れて当たり前のような顔をすればまだ……………
………っ! って、なんで儂がこんなことを言わねばならんのだ!
ええぃ! 忘れろ! 忘れてしまえ! 忘れぬのなら今すぐこの場でその脳天をぶち抜いてやる!!!
(一時休止中。音声完全封鎖。)
(封鎖解除。音声復活。)
……もう良い。
儂もアホらしくなってきた。とにかく、さっきのことは忘れろ。儂は忘れるからの。
で、まだ続けるのだな。
…ああ、わかった。もう良い。なんかもう疲れた。
よくよく考えてみれば、あやつとは会った時から疲れることばかりだったし、もう慣れた。
あやつと始めて会ったのは、あの猿の謁見に行ったときだ。
………と、どうせあいつは思っておるのだろう。
ああ、違う。
あの馬鹿者と会ったのはもっと前だ。
思えば、あの頃から声はでかいし、やたらと義を語るし、お節介焼きじゃったな。
まったく、本当に変わらぬ真っ直ぐな男だ。
疲れる。
あやつと一緒におって疲れぬのは、幸村と慶次くらいであろう。
謙信のヤツはどうかは知らん。放っておいた節もあるから、相手にするのも億劫だったのかもしれぬがな。
幸村は義だの、友情だのに喜んで首を突っ込むところがあるし。
慶次は……ああ、あいつは面白がっておるのだろう。
あの煩さのどこが面白いのかは、さっぱりわからぬ。
どこがいったい面白いのか。
供におる時でさえ、義だの何だのと語り出しおってからに。
あやつは雰囲気をわかっておらぬ。
…………もうよい。
どうせ、忘れろと言うたところで忘れぬのであろう。
これも儂の戯れじゃ。
戯れついでに、儂の気まぐれで少しだけ語ってやろう。
兼続のヤツも、いったいこの子供のどこが良いのやら。
母にさえ見捨てられた隻眼。
美しさの欠片もない顔。
うまく言葉を告げられぬ。
口からついて出てくるのは全部、全部、かわいげのないことばかり。
どうせ、あやつも気まぐれついでの戯れなのだろう。
儂のことなど、あそびのついで。
そうじゃな。
いつか、どうせそう遠くもないことだろうが、あやつが儂を見限る時がくれば、その時は清々した、と笑ってやるつもりじゃ。
お前のことなどもう知らぬ。
そう言ってやって、こっちからお前なぞ願い下げじゃった、と。
言ってやる。
……さて、戯れもこのくらいにしておこうかの。
ああ、今のか?
お前が嘘と思うのならば、嘘じゃろう。
本当だと思うのならば、儂は答えを口にせぬ。
今までも儂の意志などお構いなく勝手にしてきたのじゃ。このくらい、勝手にせい。
…………?
なんじゃ、騒々しい………………………っ………あんの、阿呆。
ああ、気にするな。噂の烏賊が来ただけじゃ。
あんな大声で呼ばんでも聞こえておるというのに、馬鹿め。
儂が迷い猫か何かとでも思っておるのか……まったく。
儂はもう行くぞ。
あの騒音馬鹿を止めてくるでな。
では、な。
<終わり>