「俺の恋人を紹介します。」



  滅多に笑わない。
  笑い方を、知らない。
  ただ、知らなくても溢れ出てくるその笑顔は、俺だけが知っていればいい話で。







  陳泰の場合。 -あなたの恋人を皆さんに紹介してあげてください。-







  恋人の紹介ね。
  はてさて、いったいなにをどう紹介していいのやら………いや、出し渋ってるわけじゃなくて、もうみんな知ってるみたいですし。。
  
  有名人ですから、俺の可愛い恋人は。

  ………ああ、これを言ったっていうのはひとまず内緒で。
  かわいいっていうと士載は嫌がるんですよ。
  怒りはしないんだが、嫌がることはあんまりしたくないんでね。ひとつ、よろしく。


  さて、じゃあ何から………とりあえず名前かな。


  名前は鄧艾。字は士載。
  魏の国の武将で、その中でも特に力をつけてきた。
  計略はもちろんのことだが、軍の指揮から、果ては文官の仕事までなんでもござれの天才でもある。
  
  本人から言うとまだまだなんだそうだが、あの仕事の処理能力は圧巻の一言なんですよ。

  机の上に積まれていた未決済の木簡が半日で全部なくなってしまうんですから。

  何? そんなことを聞いてるんじゃない?
  
  …………恋人らしい、なぁ。
  そんなこと聞いてどうするのかねぇ?
  
  ……あー、まあ確かに、士載に聞いたら真っ赤になってひっくり返ってそうだ。
  それもちょっと見てみたいんだが…あまりいじめると後が大変なんだ。
  中々機嫌を直してくれないのはまだマシなんだが、落ち込んでふさぎ込まれると非常に困る。
  主に俺が。

  性格は、不器用で、素直。
  正反対かもしれないが、本当に不器用なタチなんだ。世渡り上手にも出来ていないし…言葉数も少ないせいか、誤解されやすい。
  
  本来のあいつを知っている近しい奴らならそんなことはないんだが、何も知らない連中がとやかく言う。
  その言葉に、傷つく。
  しかもそれを表に出そうとしないからより一層、まわりとの溝はあく。
  
  俺や羊祜、杜預がそれとなくフォローしているんだが、それにしたって不器用なんですよ。
  
  でもな、そういうのを越えてしまうと、あいつは本当に素直なヤツだ。
  笑うと本当に嬉しそうで、こっちまで嬉しくなってくる。
  悲しいだとか、怒ってる、とか、そういう人間らしい部分を、俺には遠慮無く見せてくれるようにもなったし。

  そういうのは、俺の特権なのかもしれないな。

  今のところ、誰にも代わってるつもりはないんですけどね。

  二人の呼び名は、そうですね。
  公私混同はしないから、とりあえず公的な場所では俺が『鄧艾』、もしくは『鄧将軍』。
  士載は『陳泰』…と、言いたいところだが、公的な場所だとあいつは無口だから、あまり呼ばれた覚えがない。

  いつもは二人とも字呼び。
  『玄伯』、『士載』。
  そう呼び合っていますよ。呼び方を変えたいとは今のところ思っていないな。
  それに、実は字で呼んでもらうのにも苦労したんですよ。最初は俺の字を呼ぶだけで、動悸、息切れ、赤面症を起こして大変だったから。

  今は俺の名前を呼ぶだけで、ふんわり笑ってくれるようになりましたからね。

  ふんわり、淡く。
  その微笑みがまた俺を好きだって言ってくれてるみたいで……おおっと、これ以上言うと、惚気に聞こえるからおいときましょうか。

  まあ、こんな質問を俺にするくらいだからご存じの通り、この関係に不満なんてありませんよ?

  言っときますけど、士載を落とすのには本当に苦労しましたからね。
  最初は『親友』になるつもりで、いたんですから。
  
  ……その言葉で、自分の気持ちに気付いてちまうなんざ、俺としては最大の失態でしたけど。

  人生であれほど自分の発言に後悔したことなんかありませんよ。
  親友に、って言ったその直後に、気持ちに気付いて、この関係を動かせないことに気付いた大馬鹿者ですから…
  
  今はどうにかなってますけど、本当はあのまま一生、親友でいるつもりだったんです。
  
  気持ちを隠して、士載がそれで笑ってくれるならそれでいいってね。


  ………なんかもう紹介どころの話じゃなくなってきたな。
  すみません。脱線しすぎました。
  
  さて、仕切り直しで何を話しておきましょうか……


  あ、ちなみに俺のほうが6つ年下なんですよ。
  …なんです、文句でもあるんですかぃ?

  そりゃ、あいつのほうが年下に見られることが多いですけどね。
  良くて同年代、悪いと俺のほうが年上って言われてんですから。
  
  で、俺の上司で上官。
  尊敬する武将であり、俺の愛しい恋人ってわけで。

  ……いいじゃないですか、このくらい。

  結構嬉しいんですよ。恋人って公言すると照れて口きいてくれませんし、士載のヤツ。

  まあ、武将としてもさっき言ったとおり、仕事も出来るし、軍の統率力も抜群だし、はっきり言って非の打ち所がないんですが、あの無口無表情だけはどうにかできないものかと。
  …結構誤解されて、苦労してるんですから。

  実際、田舎にいたころも誤解されまくってたみたいですからね。

  ああ、でも多分今、田舎にいたころの士載のまわりの人間にあったらぶん殴るどころじゃすまないくらい腹立ててますけどね。

  昔の話はあんまりしてくれないんですよ。
  んで、無理矢理酒飲ませて、ついでに寝所に引っ張り込んで、まあ色々と致してから聞き出したら……案の定だったわけで。
  
  泣いてるのもあれが最初だったが…思い出させたのは、悪いと思います。
  
  ……ああ、ちくしょう。
  思い出したら殺したくなってきた。
  八つ当たりするかもしれませんから、この話題もこのへんで。

  そんなこともあって、今のところの俺の目標は、士載を思いっきり甘やかすことだったりするんですよ。

  甘やかして、優しくて。
  これ以上ないくらいに、一緒に笑ってやること。笑わせてやること。
  それが、今の俺の一番やりたいことかな。

  なんで、一緒にしたいことはいっぱいあるんですよ。

  遠乗りにもまた行きたいし、市場ものぞいてみたい。
  部屋や庭でのんびりしてるのもいいし、羊祜や杜預を誘って四人で酒盛りもまたしたい。

  あいつが『特別』だって思ってること全部を、『普通』にしてやりたい。

  俺が一緒にいるのも、『特別』なんかじゃなくって、『当たり前』のことなんだって、わからせてやりたい。
  実際、俺は一緒にいたいからいるだけなんですからね。

  士載が振り返ったり、手を伸ばした先に、俺がいつもいられるように。




  …あ、なんかほんとに紹介どころじゃなくなったな。悪かった。
  さてと、じゃあ俺はそろそろお暇しますよ。
  これ以上ここにいると、余計なことまで言い出しそうですしね。

  それに、実は士載が待ってるんですよ。

  仕事が終わったら一緒に市場に出る約束をしてあるんで。
  ついでにうまいものでも奢ってやろうかと思ってるんです。

  そんなわけで、俺としてはこのくらいで。




  それじゃ、俺はこれで。





 <紹介、終了。>