そこは郊外にある一軒家。
  広い庭と高い壁、ついでに最新セキュリティシステムによって守られた真っ白な印象を受ける二階建ての古い西洋式を取り入れた豪邸。

  昔の華族か貴族だかが大正時代に住んでいたような屋敷を思い浮かべてもらったほうがいいのかもしれない。
  木造立てだが古めかしい印象を与えず、かわりに威厳と風格を讃えている。

  ご近所でも有名な曹家の実家。
  そこでは噂の曹家の子息や子女が暮らしている。

  そんな屋敷は、夏の朝を迎えていた。

  朝陽が射し込み、緑の庭が青々とした空気を醸し出す。

  そして白いカーテンから夏の朝陽が顔を出す部屋の中で、つい最近その豪邸に引っ越してきた青年が目を覚ました。
  

 
  ふぁぁ、と大きな欠伸をひとつ。
  上体を起きあがらせながら伸びをして、時計に目をやる。
 
  時間は朝の6時。

  良い時間だと空白の声が呟かれて、青年はベットから出て行く。

  青年の名前は、曹昂。
  隠された字は子脩。
  黒い髪を揺らしながら廊下へ繋がるドアノブへと、手をかける。

  彼は最近、この豪邸に引っ越してきた本人であり、さらに降って湧いた遺産相続の第一位であり……ついでに、下に弟なら四人、妹が一人の合計五人いる弟妹の長兄でもあった。








  このけたたましくて愛おしい世界に、祝福の鐘を鳴らすのだ。








  手早く着替えをすませ、曹昂は二階の自分の部屋からリビングへと向かう。
  扉を開け中に入ってから窓へと向かい、カーテンへと手を掛けた。

  この屋敷の中にあるカーテンは、夏は白いレース、冬は少し厚手の暖色系のものと統一(そして季節事にかえている)している。
  しゃ、と軽い音を立てて両側へ開けると、夏の陽差しが差し込んできた。

 「…今日も暑そうだなぁ…」

  ぽつりと呟き、目を細めてから窓の鍵を開けて、少しだけ開けておく。
  朝の空気と風はまだ涼しく、それだけで快適に過ごせるからだ。

  窓を開けると次にリビングからオープンキッチンになっている台所へと向かっていった。

  敷居をくぐるとすぐそこに大きな冷蔵庫がある。
  普通の家のものに比べるとかなり大きく、容量もある。
  その冷蔵庫の扉を開けると冷気を感じながら、その中身を曹昂は覗き込んだ。

 「……ええっと……今日はどうしようかなぁ…」

  冷蔵庫の中身を確認し、手早く朝のメニューを決めてしまう。

  驚いたことにこの広い屋敷での家族の朝食、夕食は大抵は曹昂の手で作られている。
  ハウスキーパーやメイド、執事も何人かいるのだが、曹昂が来てから台所と言わず、家事のいくつかは彼が受け持っていた。

  家事の手伝いをしたり、掃除洗濯、出来ることは何でもしている。
  (勿論、家人達の仕事を横取りするのではなく、あえて手伝いの範疇であるが)

  いくつかの食材を取り出し、続いて野菜室を開けてみる。

  真っ白な大根。
  カイワレ。
  昨日の残り物のほうれん草のおひたし(ラップできちんと保存)。

 「よし、今日は和食にしよう。」

  朝食のメニューをひとさらいで決定して、曹昂はさっそく側にかけてあったエプロンを手に取る。

  ちなみに、今日のエプロンは執事兼社長秘書の荀ケから差し入れられた熊模様のもの。
  それを身につけつつも、さっそく調理台のほうへと食材を持っていった。




  ひとまず味噌汁を作るためのお湯を沸かしながら横で野菜を手頃な大きさに切っていると、キィ、と静かな音と同時にリビングの扉が開いた。

 「おはようございます、兄上。」

  涼やかな声と共に穏やそうな微笑がもたらされる。
 
 「おはよう、子建さん。」

  にっこりと笑顔で曹昂も挨拶を交わす。
  やって来たのは曹家の三番目の子。
  今年で高校二年生になる曹植である。

 「今日も朝から部活なのかい?」
 「はい、朝のほうが植物たちの手入れもしやすいですから。」

  車で三十分ほど向かった先にある有名私立高校に、曹植は通っている。
  今はもう夏休み真っ直中なのだが、彼は高校で園芸部に所属しているのだ。

 「この前は綺麗な月下美人を咲かせていたみたいだけど、今は何を育てているのかな?」
 「プチトマトですよ。」
 「……プチトマト。」

  その高校でも、美貌の人、儚げながらも優雅な佇まいから『芍薬の君』などと呼ばれている曹植の口から出た言葉は育てるものにしては何だか似合わないものであった。

  プチトマト発言に目を丸くしている曹昂に向かって、曹植は可笑しそうに笑い声を上げた。
  クスクスと笑いながら、はい、と頷く。

 「おいしいんですよ、プチトマト。」

  いや、曹植が植物の手入れがとても丁寧で行き届いているのは曹昂だって知っている。
  知っているが、なんとなく容姿からのギャップがあって、驚いた表情のまま、そう、と呟いた。

 「…でも、陽差しには気をつけるんだよ? 日射病で倒れたりしたら大変だし。」
 「はい、肝に銘じています。」

  微笑んで曹植が頷いたので、曹昂はそのまま朝食の作業に戻る。

  さくりと景気の良い音で野菜たちが切られていくのを耳にしながら、曹植はリビングのテレビの電源を入れた。
  ちょうどニュース番組が天気予報をやっていて、今日も良いお天気で暑くなる、と予報士が告げていた。





 「あーにきーーーーー!!!!」

  バタバタバタッ、とけたたましい足音と大声がリビングにまで響いてくる。
  それを耳にした曹植が顔を上げ、人数分の卵を割っていた曹昂が苦笑いをしながらドアのほうへと振り返る。

  同時に、ドアが勢いよく開けられて明るい表情の少年が入ってきた。

 「お。子建も起きてたのか、っはよ。」

  くるくると大きな声と瞳が向けられ、無邪気な動物を思わせる犬歯が浮かぶ笑みとともにのぞいている。
  その明るい笑顔とは対照的な涼やかな微笑みを曹植も慣れた様子で彼に向けた。

 「おはよございます、彰兄上。」
 「おう。」
 「おはよう、子文さん。それから……いい加減、もう少し静かに降りてきなさい。」

  他のみんなはまだ寝て居るんだからね、と曹昂が口をすっぱくして忠告する。
  幾度も行われてきたのだが、曹彰はまったく悪びれた様子もなく、

 「今度から気をつけるって。」

  と、言うばかりだ。
  ちなみに、その発言は朝のたびに言われているので、あまり効果はない。

  やれやれと溜息をつきながらも、曹昂は割った卵が入ったボウルを手早くかき混ぜていく。

 「兄上、今日も競輪のほうに?」
 「もーすぐ県大会だからさ。その練習。」

  曹植のすぐ横の席に座りながら、曹彰は手近にあるリモコンを手にとってテレビのチャンネルをいじる。

  ぴ、ぴ、と音がして乱雑に変わっていく番組を見るのでもなく、ただの惰性で面白いものがないかなーと曹彰は画面を見つめながら曹植の問いかけに答えた。

 「ふふ。兄上は期待の星だそうですね。私の高校でも噂は聞いていますよ。」

  柔らかな微笑みとともに告げられる賛辞に、曹彰は、そうか? と言いながらも犬歯をのぞかせてみせる。
  弟に褒められるのを嬉しくない兄はいない。

  曹植の私立校とは違い、地元の県立高校に通う曹彰は競輪部に所属している。
  本当ならバイクに乗りたいんだけどなー、という彼の思惑もあるのだが、走る感覚が面白いのだとも言う。

  場のムードメーカーであり、どんな場面、どんな相手でも物怖じしない曹彰の気性を慕う者だって多い。

  実際、部の同輩は勿論のこと、後輩達からも慕われている。
  (まあ、女子からの評判はと言えば、友達感覚のようなものが多いのだが。)

 「ぜぇったい、新記録狙うぜ。見てろよな、子建!」
 「はい、勿論。」

  えっへん、と胸を張りながら宣言する曹彰と、そんな彼の発言を笑顔で見守っている曹植。
  一見すると微笑ましい光景なのだが、熱したフライパンの上に溶き卵を落としながら、曹昂は溜息をついてみせる。

 「それはいいけど、子文さん。いい加減に机の上に片足を乗せるのはやめなさい。」

  お兄ちゃんは怒りますよ、と小さなお叱りの雷が落ちたところで、曹彰はようやく席に落ち着く。

  先ほど変えるのをやめたテレビからは、『今日のスポーツ情報』なるものが流れていた。




  
  とんとんとん、と階段を下りてくる小さな足音が、一時静かになっていたリビングに届く。

  昨日の野球情報に見入っていた曹彰が顔を上げ、同じく新聞に目を落としていた曹植もドアのほうへと視線を流す。

 「……おはようございます、兄上たち…」

  ゆっくりと開かれてくるドアの向こう側。
  眠たそうに片目をこすりながら、小さな彼らの末の弟が顔を出した。

  ちょうど先に起きていた二人のために朝食までの『繋ぎ』である野菜ジュースを持っていこうとしていた曹昂が、答えて笑顔で口を開く。

 「おはよう、倉敍さん。」
 「今日も早起きじゃん。」
 
  それぞれが声をかけ、それに曹沖も答えながら頷いて自分の席へと向かう。

 「…この前から夜が遅いのではないですか。」

  そこへ曹沖の眠たそうな様子を心配した曹植が声をかける。
  それを聞いた曹昂も表情を曇らせて曹沖の顔を覗き込んだ。

 「平気です。今日はもう発表の日ですし、その用意でちょっと…」

  曹沖は苦笑を浮かべてみせるが、その表情にはやはり疲れが見える。

 「無理はダメだぞ! お前はあんま丈夫じゃないんだしっ。」

  酌み取って少しだけ厳しい表情をした曹彰が『兄』としての発言を口にする。

  曹沖は曹植よりもさらに遠く、車で四十分もかかる有名私立小学校に通う『天才児』であった。
  小学六年生という幼さからも考えられないような思考回路を持ち、大人の学者でさえも足下にも及ばないようなひらめきと頭脳を併せ持っている。

  いくつもの論文を世に出し、それが学会にも取り沙汰されるほど。

  しかし、体のほうは曹家の中でもすこぶる弱かった。
  季節の変わり目には熱を出し、少し無理をしても同じこと。
  まるで才能の変わりに、体のほうを持っていかれてしまったのではとまわりの大人達から思われてしまうことだってある。

 「…はい。」

  そんな弱い体のことを曹沖は自分でもふがいなく思っている。
  しゅん、としてしまうのだが、その頭の中では曹彰や曹植が自分のことをものすごく心配していることだってわかっている。

  わかっているから、なお、辛い。

 「……倉敍さん。」

  俯く曹沖の頭の上に、暖かな手が乗せられる。
  惹かれるようにして曹沖が顔を上げると、曹昂が優しい顔で笑っていた。

 「今日の学会が終わったら、しばらくは『夏休み』なんだろう?」
 「は、はい。」
 「じゃあ、今日はお祝いをしようか。」

  私の作るもので悪いのだけれど、と曹昂は笑いながらも、曹沖の頭を撫でる。
  その手が優しく、そして自分を労ってくれているのを感じ取って、驚きで曹沖も目を丸くする。

  二人の様子を見ていた曹植も、

 「そうですね。それに良くできたご褒美をあげないと。」

  と、言って曹昂の話に乗る。
  先ほどの自分の発言が悪かったのを感じ取った曹彰もそれに乗って、明るく声を上げた。

 「じゃあさ、みんなで今度の休みにどっか行かないか? 倉の好きなとこでいいぜ。」

  提案をして、あそこがいいここがいい、と次々に曹彰が場所を上げていく。
  そこは兄上が行きたい場所でしょう、と曹植が止めながらも、曹沖が好きそうな場所を思いつくままに言葉にしていった。

  聞いていた曹沖の瞳が期待でキラキラと輝き出すのを見てとってから、曹昂は手を離して、曹沖の分のコップを取りに戻る。





  しばらく『お出かけ先』をどこにしようか話し合っていた曹彰たち。
  どうやら曹家の避暑地にある別荘(ちなみに海と山の間にある絶好のもの)に行くことになりそうだ、と曹昂が思ったところで、ぱたぱたと廊下を駆け下りてくる軽い足音が聞こえてくる。

 「大きい兄様ーーーーー!!!!」

  ばぁん! と、思いっきりリビングのドアが開け放たれる。
  その音にびっくりして全員が振り返ると、ドアのところで泣きそうな顔で少女が立っていた。

 「…節ちゃん?」

  可憐な花を思わせる風貌。
  微笑めばそれだけで同学年と言わず学校中の男性陣を骨抜きにしてしまえるような可愛らしさ。

  曹植とは隣同士にある私立中学校に通っている曹家の中の紅一点……曹節が半ば泣きべそをかいている。

 「ど、どーしたんだよ、節。」

  そんな彼女の様子に吃驚して固まっていた兄弟の中で一番に曹彰が我に返って声をかける。
  幾分、言葉につまりがちではあるが、気遣うようなその声に、曹節が自分の目元を細い指先で拭う。

 「彰兄様……」
 「そ、そうだよ、節。とにかく落ち着いて。」
 「姉上、何かあったのですか?」

  やがて石化状態から立ち戻った曹植たちも曹節に話しかける。

  くすん、と彼女は小さく鼻を啜った。

 「……髪留めがうまくとまらないんです…」

  そして紡がれた内容に、一同がその場でズッコケた。

  彼女、曹節にとっては死活問題であったのだろう。
  だが内容が内容なだけでに、何か悪いことでもあったのかと心配した一同の内心は複雑なものだ。

  しかしそんな中でも長兄である曹昂は困ったような顔をしながらも、しょうがないなぁ、と一言呟いただけだ。

 「子建さん。悪いんだけど、お味噌汁を分けておいてもらってもいいかな?」
 
  話を振られた曹植は一瞬、瞠目してしまうが、すぐに曹昂の意志を酌み取って頷いて席から立ち上がる。
  同じく曹沖が席から立ち上がる。

 「僕もお手伝いします。」
 「助かります。倉敍はおひたしを小鉢に移しておいてください。」
 「んじゃ、俺も何かする。」

  茶の準備でもするかと曹彰も最後に立ち上がって台所のほうへと集まる。
  それと入れ替わるようにして曹昂が曹節に歩み寄り、彼女の手を引いてテーブルのほうへと移動する。

  椅子のひとつに座らせてから、彼女が持っていた髪留めを貰った。

  同じようにエプロンのポケットにあった櫛を使って彼女の黒髪を丁寧に結っていく。

 「泣かなくてもいいよ、節ちゃん。せっかくの可愛い顔が台無しだ。」

  優しく話しかけながら髪をまとめ、留めていく。
  その声に曹節は残っていた涙を飲み込むようにして上へと僅かに顔を上げて、はい、と呟いた。

 「ごめんなさい、兄様…」
 「気にしないで。」

  片方の髪をゆるやかに、だが確かな腕で結い上げると、開いていた手で彼女の頭の上へと手を置く。
  ぽんぽん、と軽く叩いてからもう片方へと取りかかった。


  ……そういえば、今日は劉協さんと会う日だったな。と。
  曹昂はそんなことを思いながらも手を止めることはなかった。

  私立中学校の中でも『咲き誇る大輪の牡丹』として名高い曹節の心が、曹植と同じ高校に通う劉協という古い貴族の血筋の青年の元にあることを曹昂は知っていた。

  それから、好きな人の前では一番可愛くありたいと思うものだということも含めて、納得したように頷いてから、微笑ましくなって曹昂は双眸を崩す。

  曹節からは見えない位置であったので、その眼差しを彼女が知ることはなかった。





 「はい、できあがり。」

  しばらくして曹節の髪が綺麗に結われ(ちょうどこめかみの上のあたりで一本ずつ三つ編みがされ、そこに髪留めが揺れている)、曹昂が笑いながら彼女に話しかける。
  ちょうど弟たちの手によって、和食中心の朝食もテーブルの上に着実に並べられていった。

  今日は、大根とカイワレのお味噌汁。
  ほうれん草のおひたし(ゴマつき)。
  厚焼き卵と、ご飯。
  あとは山椒や、たくあんといったものが並べられている。

  海苔の入ったケースも戸棚から出してきて、朝食の準備が出来上がる。

  あとは、そう。

 「………騒々しいな。」

  曹昂のすぐ下の弟。
  曹家の二番目の男子であり、大学生の曹丕がようやくダイニングに顔を出す。

  既にきっちりと身なりを整え、黒いシャツに嫌味にならない程度のアクセサリと、細身のズボンを穿いている。
  
  モデル顔負けの風貌だが、それはもう慣れた曹家の人々は振り返って口々に彼に向かって挨拶をする。

 「おはようございます、兄上。」
 「はよー! 兄貴。今日も一番最後なっ!」
 「ご機嫌麗しゅう、兄様。」
 「すみません、騒がしくて……」

  そのひとつひとつに頷きながらも短い言葉をかける。
  (特に曹沖の頭の上に手を置いて、撫でたりすることを忘れないあたりが『兄』たる所以であろう。
   ちなみに、気にするなという意思表示である。)

  残った最後の二つの椅子のうちの片方に曹丕が座ると、すぐに野菜ジュースの入ったコップが置かれる。

  曹丕が顔を上げると同時に、曹昂が柔らかな笑みを浮かべてみせた。

 「おはよう、子桓さん。」
 「子桓、だ。兄上。」

  即座に切り返して曹丕が言う。
  その言葉に曹昂が途端に困ったように眉を寄せる。

 「で、でも、まだ私は入って日が浅いし…」
 「あ。そういえばさっきも俺のこと、さんづけしてたぞ!」
 「私もそうでした。」
 「僕も……」
 「私はちゃんですよ。兄様、私も大きいんですから。」

  間髪入れずに下の弟妹たちからも不満の声が上がる。

  困ったように視線を右往左往させるのだが、弟妹達の視線は厳しい。

  ……曹昂が『この家』に入り、兄弟妹(きょうだい)となってから数ヶ月がたった。
  たった数ヶ月。
  もう、数ヶ月。

  しかしながら、中々、曹昂も慣れない。
  いきなり出来た弟妹たちのことを、他人行儀に呼んでしまうのも仕方ないことだ。

  可愛い、とは思うのだけれど。

 「………じゃ、じゃあ……」

  数ヶ月前までは存在さえも知らなかった弟妹たち。
  彼らのことは、曹昂はそれはもう可愛く思っているし、大好きであるし、気に入ってもいる。

 「…子文。」
 「おう!」
 「子建。」
 「はい。」
 「倉敍。」
 「はい!」
 「節。」
 「はい、兄上。」

  離れていた時間など、まるで始めからなかったかのように。

 「子桓。」
 「ああ。」

  そして曹昂と同じく、弟妹たちも突然やってきた『長兄』のことを受け入れているのだ。

  呼ばれた名にそれぞれが嬉しそうに笑みをこぼしあっている。
  その表情はどれも個々のものであって、ひとつとして同じものがない。

  だからこそ、いとおしくて仕方ない。。





 「では、全員が揃ったことだし…………みんな、召し上がれ!」





  長兄の号令のもと、「いただきます」という挨拶とともに曹家の朝は始まる。

  今日も一日、けたたましくて、けれどそれゆえに愛おしい日々が幕を開けていくのだ。





 <終わり>