どうか、おもいだしてください。
それは千の夜を越え、億の朝と、幾億の光とともに紡がれるべきもの。
どうか、けしてしまわないでください。
それはあなたにとっては、涙を連れてくるものなのかもしれません。
あなたのその胸に、悲しみを連れてくるものなのかもしれません。
どうか、はなさないでください。
あなたのその指先に繋がれた、たった一つの指先を、
どうか、どうか。
あなたのその先にいる人を、どうか、どうか、おもいだしてください。
あなたの涙を連れてくる人を。
あなたの悲しみを連れてくる人を。
あなたに、ぜつぼうを、おしえた人を。
どうか、
それだけが、わたしの望みなのです。
ドウシヨウモデキナイ。
いいえ。
ドウ足掻イタトコロデ、変ワルコトモナイダロウ。
いいえ、いいえ。
イインダ。
モウ、イイ。
いいえ、いいえ、いいえ!
モウ、イインダ。
モウ、コレハドウスルコトモデキナイ。『アノ時』カラ、決マッテイタコトダ。
ソウダナ。
ダガ、良イコトモアッタ。
コレデ、アイツハ、モウ泣カナイ。
悲シマナイ。
ダカラ、
いいえ!
……ダカラ、モウ、イイ。
悲しまないことが、悲しくないなどと、いったい誰がいったのでしょう。
涙はなくても、
こころは、かならずどこかで繋がっているもの。
あなたが、必ず彼の心に穴を穿つのに。
……デキナイ。
その穴を、あなたは一度は塞ぎ、
モウ、デキナイ。
それをまた、抉り取ろうというのですか?
俺ガ、
俺ガイナクナッテモ、モウアイツハ、泣カナイ。悲シマナイ。
ソレダケハ、感謝スル。
切ニ、
どうか、おもいだしてください。
あなたの涙を奪い去ったものを。
あなたの心に、暖かい何かを連れてきた人を。
恐怖と、
畏怖と、
憧憬と、
それより、もっと多くの、言葉にさえ出来ない何かを、連れてきた人を。
どうか、どうか、おもいだしてください。
けしてしまわないでください。
「…………?」
どうか、けしてしまわないで。
あなたのこころに穿たれた、その穴を、
「……どうして…私は、涙など……」
それはあなたに絶望を教えた。
それはあなたに、 を、教えた。
どうか、けしてしまわないでください。
その繋がれた指先を、どうか離してしまわないでください。
その、紡がれた唇の意味を、どうかおもいだして。
<終わり>