「遅くなって申し訳ないです。賈ク殿。」
「まったくだ。」
「うわ、即答ですか……悪かったと思ってますよ。」
「そう思うのであれば態度で示していただきたいものだ。あとはお前の隊の報告書だけだったんだからな。」
「だから悪かったですって。あ、お詫びに今度酒でも……」
「いらん。」
「賈ク殿、愛がありませんよ。」
「私が欲しいのは愛などよりもまず、提出期限を守った報告書なのだが?」
「………すみませんでした。」
「謝るくらいならもっと早く持って来い。まったく……(溜息)」
「はい…………って、あれ?」
「なんだ。話を逸らすな。」
「いえ、そうじゃなくて……あれ。」
「?」







【でっかいわんこと、にゃんこを見る人たち。】







「あれって、トウ艾ですよね。」
「ああ。」
「どうしてまたここ(軍師たちの執務室)に?」
「自室でするよりもここのほうが必要な書類が揃っているから、だそうだ。」
「うわ、珍しい……いつもは自分の部屋か、陳泰たちがたむろしてるとこにしか現れないとか何とか聞いてたのに……」
「さぁな。」
「……で。」
「……なんだ。」
「それより、俺、すっごく気になることがあるんですけど。」
「………………」
「……トウ艾の膝のとこにいるの、俺の見間違いじゃなければ呂布の旦那だと思うんですけど。」
「……(すっごく深い溜息)」
「……(否定がないなぁ、と思いつつ)…しかも膝抱っこ。」
「……そうだ。」
「なんでまた。」
「知らん。」
「知らんって、賈ク殿はずっとここにいたんでしょう?」
「あいつがどうしようと私の知ったことではない。」
「まあそう言わずに……旦那が来てるのは珍しくないんすけどね。」
「あいつは荀攸殿達のお気に入りだからな。」
(荀攸殿たちのことは敬ってるんだもんなぁ、賈ク殿…呼びつけじゃないし。)
「何か言ったか。」
「いえ何も。」
「…………先に呂布が来て執務をしていたのだ。」
「…執務。」
「それも荀攸殿たちが見ていた。そこへあいつがやって来た。」
「ああ、さっき言ってた必要な書類とか見せてもらうためですね?」
「ああ…それで、あいつが呂布を見つけて、二.三話をしていたのだ。」
「ふんふん。」
「……そうしたらああなっていた。」
「(ずるりっ) な、なんで? てか途中経過全然わかりませんよ? 脈絡もないし!」
「だから知らんと言っているだろう。トウ艾がいつの間にかああしていたんだ。」
「トウ艾が………あー、あいつここんとこ旦那にべったりでしたもんね。」
「それでどうして膝に抱き上げているのか…(こめかみを押さえている)」
「気に入ってるからじゃないですか?」
「は?」
「だってほら、犬とか気に入ったのがあると自分のとこに連れてくるじゃないですか。」
「………(胡乱気にトウ艾のほうを見て)犬。」
「ええ、犬。」
「……随分とでかい犬だな。」
「大型犬でしょうね。しかも全然まったく吠えないくって、のっそり歩いてそうなの。」
「具体的だな。」
「なんとなくね。しかし呂布サンもよくそれを許してますよねぇ。」
「…あれが許しているように見えるか?」
「へ?」
「思い切り眉間に皺を寄せているだろうが(指をさして)。」
「え、マジですか…って、ほんとに寄せてるっ! しかもよく観察するとオーラ怖っ!」
「さっきから何度も降りようとして、そのたびにトウ艾に無言で引き戻されているのだ。」
「……てか、旦那相手によくそういうこと出来ますね…殴られるどころかぶっ飛ばされそうなのに。」
「勝手にすれば良い…そして、私のいないところで…(深い溜息)」
「あははは。」
「やかましい(べしん)」
「あいた(全然痛くはない。所詮は武力1)」
「そもそもどうして荀攸殿や荀イク殿もああやって放っておくのか。」
「多分、微笑ましいなぁとか思ってるからじゃないですか? 性格的に。」
「それでトウ艾は仕事が出来るのだから余計に腹立たしい…目障りだ!」
「(うわぁ、怒ってるなぁ)……あ。」
「あ?」
「呂布の旦那が動いた。」
「何……(振り返って)」
「なんかギィギィ怒ってますよ。」
「トウ艾の膝から降りて何やら説教をしているな。さすがに堪忍袋の尾が切れたか。」
「それでも旦那にしては随分と待ったほうじゃないですか? いつもなら気に入らないと即座にぶっ飛ばしてるでしょ。」
「…………荀攸殿が。」
「はい?」
「呂布のヤツもトウ艾のことが気に入っている、と言っていたのを聞いた。」
「ああ、成る程。だから今まで我慢してたってわけだ。呂布サン、気に入ったヤツには心が広いって張遼の旦那も言ってましたし。」
「………(深い溜息)」
「ああ、なんか怒鳴ってる。しかも熱弁で…ちっこいから怒った猫みたいだし。」
「あんな凶暴な猫は、いらん。」
「そう言わないで……あ。」
「(またか)…あ?」
「トウ艾がしょんぼりしてますよ。」
「………無表情でもわかりやすいな。」
「オーラが違いますからね。しかも背中が何かすっごい寂しそうで。」
「解説するな。そのくらい見ればわかる。」
「呂布サンも『悪いことしたのか』って顔になってうろたえてますし。」
「ふん、元はと言えばトウ艾のせいだろうに。」
「…きっと、首項垂れてしゅーんとしてる犬を見てるような気分なんですよ。あれ見せられると、こっちがなんか悪いことしたような気分になりますもん。」
「私はならんぞ。」
「じゃあ子犬でどうです?」
「(うぐ……)……な、ならんと言ったらならん!(顔真っ赤)」
「(わかりやすいなぁ)……あ、トウ艾が立ち上がりましたよ。」
「そ、そのようだな。」
「呂布サンもなんか見送っちゃってるし。どうしよう、とか思ってるんでしょうね、あれって。」
「だから私は知らん、と……」
「うーん、どうするんでしょうね。なんか気になるなぁ…賈ク殿、ちょっとここに残ってもいいです?」
「邪魔だ。」
「即答ですか。ああ、書類の整理でも手伝いますから…」
「余計に邪魔だ。」
「…………………じゃあ、木簡の整理。」
「どうしてもここに残るつもりなんだな?」
「だって面白そうじゃないですか。」
「…………荀イク殿たちのほうも手伝え。あっちにも未整理の木簡がたまっている。」
「合点承知。ありがとうございます、賈ク殿。」
「ふん………」


(十数分経過)


「…………(木簡を棚に片付けながら)」
「…………(未処理の案件を片付けようとしているのだが、額に青筋を浮かべている)」
「…いやぁ……確かにトウ艾のヤツは『人とはまったく違うことを思いつく』とか何とか聞かされてましたけど…」
「……………(ブルブルと筆を持つ手が震えている)」
「あそこまでは俺も予想できませんでしたよ。凄いよなぁ…」
「凄くない(ボキッ)!」
「うわ、筆折れた! じゃなくって、聞こえますよ。賈ク殿、落ち着いて。」
「落ち着いていられるか! いったい何なのだ、あれは!」
「だから聞こえ………トウ艾のヤツ、全然まったく動じてませんね。」
「呂布、お前もいい加減にしないか!(ズカズカと二人のほうへと歩いていく)」
「あ、ついに呂布サンに絡んじゃった。」
「………ギ、ウ…」
「…賈ク、殿…呂、将軍…が、困って…ます……」
「困る? 困らせているのはお前のほうだろう!」
「まあまあ、賈ク殿、ちょっと落ち着いて…」
「これが落ち着いていられるか! 荀イク殿達が放っておいたから膝までは我慢した。私にしては随分と譲歩した!」
(あれで譲歩してたんだ。てことはツッコミたくって仕方なかったんだろうなぁ…)
「何か言ったか、ホウ徳!」
「いえ、何も。」
「…何か、不都合…でも…?」
「私の精神衛生上不都合だらけだ!」
「ぶっちゃけちゃったよ……あー、でも不都合とかそういうの抜きにして、」
「抜きにするな!」
「賈ク殿、ちょっと黙って(賈クの口を塞いで)……で。」
「……は、い……」
「さっき、呂布サンに怒られてしょぼくれて出て行ったところは見てたんだ。悪いけど。」
「……見テイタノカ。」
「そりゃね。」
「ムゥ……(ばつが悪そう)」
「で。しょぼくれてどうなるのかなーって思ってたんですよ。」
「覗キカ。」
「堂々としてるんで、覗きじゃないです。」
「同ジダロウガ!」
「呂将軍………」
「そうそう、落ち着いて、な? …で、トウ艾が帰って来たなぁと思ったら。」
「…………(視線を逸らす)」
「………机、を。」
「持って来たよな。しかもちっこいヤツ。それを呂布サンの前に置いて、また膝に抱き上げた。」
「…………」
「そりゃまたなんでだ?」
「……呂将軍、が…」
「うんうん。」
「………膝に、抱き上げ…られた、まま…では…仕事、が…しに、くい…と……」
「………は。」
「机に、届かない……と…おっしゃられ…たの…で……」
「…それでこの机を持ってきたのか?」
「はい……」
「………………………ぶ。」
「?」
ぶははははははははははははは!(爆笑)」
「笑ウナ!」
「だ、だって、その会話の流れで……! あはははははははははは!」
「(目を丸くしている)」
「ひぃっ、腹が痛い! 横隔膜が痛い! でも止まらない! 面白い、おかしすぎるぜ、トウ艾!」
「…………はぁ。」
「最高だ! なんかもう、俺、お前大好きかも!」
「オ前ハ…!」
「怒んないでくださいよ! 呂布サンだって机に届かないって文句言って、それで代わりの机まで持ってきたコイツに絆されたんでしょ?」
「ギ…!」
「しっかしそこまでして呂布サンの側にいたいんだな、トウ艾?(からかうつもりで)」
「オイ、イイ加減ニ……!」
「……………(こくり)」
「ナ、ナ……」
「あはははは! モテモテじゃないっすか、呂布サン。あ、ついでに俺も結構あんたのこと好きなんでそこんとこヨロシク。」
「知ラン!」
「………ホウ将軍。」
「ん? どした。」
「……賈ク、殿…が……(指をさし)」
「へ、賈クど……って! うわ、すっかり忘れてた! なんか顔色悪っ! 賈ク殿! 賈ク殿っ?」
「………(ホウ徳に口を押さえられている間、息が出来なかったのでぐったりしている。)」
「すいませんっ! しっかりしてください、賈ク殿! 死んじゃダメですよっ!」
「……誰ノセイダ……(溜息)」
「………(仲良いなぁ、とか見当違いのほうを考えてホウ徳たちを見つめているトウ艾の図)」



 追記。
 ホウ徳が(自分のせいで)意識を失った賈クを医務室へ連れて行った後も、トウ艾は呂布を膝抱っこしたままでしたとさ。まる。




【追記】
 これを書いたのが二年くらい前で、その頃、すごいトウ艾フィーバーが私のなかで巻き起こっていたのですよ(笑)
 今もかなり好きです。トウ艾。
 ホウ徳と賈クの知力と武力逆転コンビも好きです。
 賈クが書く分には少し難しいのであんまり書かないんですが、二人セットだとなんだか楽しいですね。

 こんなん書いてますが、呂布とトウ艾のカップリングとかはまったく考えてません(ちょっとは…(苦笑))
 二人はほんとに、でかい犬とちっこい猫という光景を想像しているんで。
 犬のほうが猫大好きで離さない。みたいな。