「好きだ」
告白した。
その答えは幾らかシミュレートしたつもりだった。
頷いて応えてくれるのではないか、とか。
またそんな冗談ばかり、と笑い飛ばされるとか(だったら仕方ないので、冗談のするつもりだった)。
怒って、
怒鳴られて、途惑われて、
(ただ、さすがに気持ち悪い、と言われるのは想像したくなかった。それは意識の外に追い出しておくことにした。想像でも、それを言われるのは辛い)
だが、これは予想していなかった。
予想していない事態に頭がついていかない。処理能力が追いつかず、目の前の状況を見ても呆然とするだけで何の反応も出来ずに、いた。
「うそつき」
泣かれた。
告白して、それを聞いた小松が目を見開いて真っ青になったかと思うと、そのままボロボロと泣き出したのだ。
泣かれるのは予想していなかった。
そもそも、感受性の強いせいかよく泣いている場面には出くわすが、それは大抵がやかましい、いわゆる大人しくない泣き方でいくらでも対処の仕様があったのが常だった。
だが、これは違う。
今までものと、質が違うのだと自分のなかの何かが声高に警鐘を鳴らしているのが聞こえた。
「うそつき」
加えて、この台詞。
少なくとも告白に対して泣きながら言うようなものではない。
そもそもうそつき、とはどう言ったことなのか。
自分は嘘なんてついていない。ついた覚えもない。
好きだ、と言っただけなのだ。
そう、好きだ、と。
「うそつき」
それ、と。
自分の先ほどの、告白が、符号する。
合致した末のその答えに、自分の中で何かが爆発するんじゃないかという衝撃に見舞われた。
「オレが、いつ、嘘をついた」
ボロボロ、ボロボロ。
まだ涙は流れている。それでもそれに構ってやる余裕はない。
もし自分の思っていることが小松の言葉の答えなのならば、
「好き、だなんて、」
嘘をつかないでください、と小松はさらに泣いた。
「ふざけんな」
小松の答えに目の前が真っ赤に染まる。
告白を、嘘だとされた。
いくらでも想像した結末のなかで、それは変化球であり、地雷でもあった。
知らず、握った拳に力が篭もる。
それでも小松の涙は止まない。
雨のように、雨粒のように、その丸い頬から滑り落ちて、床の上に幾つもの染みを作っていく。
「うそ」
「嘘じゃねぇよ!」
「うそ」
「嘘じゃねぇ、ってさっきから言ってんだろ!」
声を荒げたのは失策だろう。だが、反射的に手を出さなかったのは、自分でもよく堪えたほうだと思う。
好きだと思ったのは事実。
その想いは本当で、嘘なんてひとつもない。
なのに、それを正面から、頭から否定されているのだ。怒らないほうがおかしいだろう。
なにより、嘘ではないと言っても小松は信じてくれない。涙が、止まらない。
拭わない涙がさらに溢れ出す。
あとからあとから、止まない。
静かに、ただ静かな否定だけが、繰り返される。
それは殴られるより、怒鳴られるよりもなお心を抉った。
涙が落ちるたびに、胸の中が鋭いナイフで抉られて、血が流れ出しているんじゃないかと思うくらいに、痛かった。
「なんで」
信じてくれないんだ。
オレには、お前しかいないのに。
君しかいないんだ
title:『愛しいきみと』 直青