「あどけない、ってね」
「ああ」
「ん」
「無邪気でかわいいとか、無心であるとか、そういう時に使われるそうだよ」
「あどけない、なぁ」
「あどけない寝顔とか言うもんな」
「うん。そうだね」
「じゃあ」
「かってる」
「だよね」
三対の目が、示し合わせたように下に降ろされる。
そこにいたのは、真っ白な狼。その柔らかな毛に体を横たえ、気持ちよさそうに眠っている小松だった。
小さく規則正しく上下する胸が熟睡を示している。
確かにテリーの毛は眠るには気持ちよいだろう。
寝床にされているテリーも大人しいもので、腹ばいになって体を横たえたまま、思い出したように尻尾を振るくらいにしか動こうとしない。
「もう季節は秋だから、涼しいのはわかるけどね」
そう言いながら、長い指が額にかかった彼の短い髪を払う。
「テリーがいるって言っても風邪引くだろ」
そこまで弱くないのも知ってるけどな、と誰にいいわけをしているのでもなく呟きながら、丸い頭をくしゃりと撫でる。
「ったく、オレたちを待たせるなんていー度胸だな!」
プリプリ怒りながらもさりげなくタオルケットをかけてやるのは、もう苦笑しか誘ってこない。
「素直じゃないな」
「まったくだ」
「っるさい!」
「大声出さない。小松くんが起きちゃうだろう?」
シィ、と人差し指を口元にあてながら、そっと振り向くが小松は目を覚ました様子もなく、気持ちよさそうに眠ったままの体勢だった。
その姿を見ているとなぜか笑みがこみ上げてくる。
なにもしていないのに、いるだけでこんなにも優しいぬくもりを心に落としてくれる存在というのは、貴重だ。
「おやすみ、よい夢を」
返事はなかったが、健やかな寝息がその答えのようだった。
あどけないぬくもり
title:『愛しいきみと』 直青