空は抜けるような青色が広がっていた。
太陽は天の一番高いところにいて、その光を地上へと降り注いでいる。
まるで絵の具のパレットをそのまま広げたような青空に、時折アクセントのように白い雲が流れているのが見えた。
頬を通り過ぎる風は初夏のものにしては心地よく、眠りの縁に誘われるようでトリコは大きく欠伸をひとつ、した。
その空の下。
寝っ転がっている草原から首を巡らせると、洗濯物が気持ちよさそうに風に泳いでいるのが見えた。
規格外に大きい自分に合わせて、その洗濯物たちも常人には考えられないくらい大きい。
その上で量もある。
大きさもそれなりにあるのだから幅を取るのは仕方のないことだろう。
バサバサと風に踊るそれを何となく見ていると、鼓膜が何かの音を捉えて震えた。
聞こえてくるのは楽しげな笑い声だ。
スイーツハウスの目の前。
甘い匂いに乗って、嗅ぎ慣れた匂いが洗濯物の向こうで移動しているのがわかる。
何がそんなに楽しいのかと内心首を傾げていたのが、次いで『ウォウ!』と特徴的な鳴き声が聞こえてくる。
ああ一緒にいるからなのか。
と、一人納得したところで、洗濯物の影からあの小さな体が姿を現す。
「テリー、こっちだよ」
親しげに呼びかけると、後を追うように真っ白な巨躯が出てくる。
その口元には器用に洗濯籠を加えていた。テリーなりに手伝いをしている、と言ったところだろう。
移動した先で小松が胸元のポケットから洗濯ばさみを取り出す。
テリーはその彼の足下に籠を置くと、行儀良くその場に座っていた。
小松がにっこりと笑いながらテリーへと手を伸ばす。
その距離は洗濯籠に挟まれて少々あったのが、テリーは自ら撫でて貰いに(そうとはわからない程度に)首を下へと向ける。
小さなその手が鼻先から上のほうへ、そして頭を撫でて耳を擽ると気持ちよさそうに目を細めていた。
「お手伝いありがとう」
小松がそう言うと、まるで気にするなと言わんばかりにテリーがまた鳴いて応える。
その意味が伝わったのかはわからないが、小松は笑顔のままテリーの頭をもう一度撫でていた。
そうして足下にある洗濯籠から新しい洗濯物を取り出すと、バサッとそれを広げる。
風に泳がせながら皺を伸ばすと、それを次々と干していった。
テリーもそれを時折尻尾を揺らめかせながら眺めている。
穏やかな、それでいて退屈極まりない時間だった。
時間はどんどん過ぎていくのに、それでもこの光景を見ているのは、悪くない。
穏やかで、
退屈で、
平和で、
怠惰で。
…そしてなんて、
知らず、腹のなかが何かでいっぱいに満たされていくのを感じ取る。
何も口にしていないはずなのに、息を吸うようにそれは次々とトリコの腹のなかを満たしていくのだ。
その満たされる感触に満足感を覚え、知らず笑みをこぼしていると洗濯物を取りだそうと体を巡らせた小松と目があった。
結構な距離があったはずなのに目があったことがわかると、小松は嬉しそうに双眸を崩す。
「――トリコさん!」
笑顔とともに、もたらされるその名を呼ぶ声。
こちらの視線に気付いたテリーもまた、ウォウ! と鳴き声を上げて呼んでくる。
手を広げて待っているかのような、その声。
こちらの存在を自然に求めてくれていることがわかるという、絶対的な確信。
それを当たり前のようにくれるということ。
トリコはニィ、と笑いながらその場から起きあがった。
世界は、往々にして幸福だ。