サニーが小松と交わした約束。
 それはもし小松が自分を完璧に満足させることができたのなら、もう一度だけ姿を見せる、というものです。
 その約束は、小松に自分の望むもの=(イコール)美しいものを作らせるために口にしたものであり、元々はそんなことは起こるはずがないと思いついたデタラメの嘘のようなものでしかありません。
 いつになるかわからない約束を小松がいつまでもこだわっているわけがない、と。
 いつか、小松のほうから諦めて自らの元を去ってしまうだろうと考えての、ひどく打算的なものでした。
 けれど、小松はその約束を反故にすることなく、サニーの望むままに自らの手が生み出す料理の数々を披露しています。その腕は、日を増す事に着実に伸びていっているほどでした。
 サニーから受ける調和という新しい感覚と、様々な知識によって目に見えて腕が伸びていていたのです。

 ただ、サニーが完璧に満足する以前の問題で、彼は小松の姿を目にしたい、と思うようになっていました。
 つまるところ、先の約束はサニーもまた扉越しでしか小松に会えないという裏を併せ持っていたのです。小松のほうはサニーの返答を待つ状態で、つまり、許されることがなければ扉を開けるようなことはしません。
 すべては、扉一枚越し。
 それを開けることができるのはサニーだけでした。
 しかしこのとき、サニーは扉を開けることを躊躇し始めていました。
 先の話に戻りますが、小松の望みは『サニーともう一度会いたい』というもの。

 つまりそれは、サニーが扉を開け、もう一度を果たしてしまえば今の関係が失われるという意味も含んでいるかもしれないのです。
 サニーを見れば小松のほうこそ満足してしまい、自身の元から去るかもしれない。
 少なくとも、小松は元いた場所のことを懐かしんでいる様子でした。
 季節は少しずつ色を変え、もうすぐ一巡りがしようとしています。それほどの期間、小松はずっとこの城に留まっているということです。

 サニーは、扉を開くことが出来なくなってしまいました。
 小松に会いたい。
 あの庭で見た、あの姿を直接……目の前で見てみたい。あの真っ直ぐな、射抜くような澄んだ目を見たいと思うのに、扉に手をかけることができなくなってしまいます。
 扉を開ければ、そこで終わるかもしれない。
 扉越しでも、小松がそこにいるということ。
 言葉を交わし、思い出を交わす。
 彼が自分のためだけにするすべてを、サニーは手放したくはないと思ってしまいました。
 胸のうちで、小松がただ一度……もう一度、自分の姿を目にして、そこですぐにいなくなるわけがない、という予感めいたものもなくはありませんでした。
 そう思うくらいには、サニーもまた小松の感情を読み取ってもいたのです。
 けれど、扉は開きません。
 特別な言葉をかけることもできません。

 …………扉を開けるのは、まだ先でもいいのかもしれない。

 サニーはそう思うようになりました。
 いつか、そう、いつか。
 小松は約束が果たされるまでいなくならない、という予感もあったので、それを前提にして日々を過ごしていきました。
 毎日同じように小松の作る料理を口にし、あるときはアドバイスをする。
 そんな、真綿にくるまれたような変わらない日々が続いていきました。
 ずっとずっと、
 変わらない扉越しの会話を交わしていきます。

 生まれて始めて、サニーが心安からに過ごせる時でもあったのです。
 季節は巡り、1年が過ぎていきました。

 幸福な1年でした。

 ……………思い返せばサニーの中を塗り替えてしまうほどの、目の眩むような1年でした。
 それは、あまりにも幸福な、






The Beast.-07-