移動する道中、『いつもどおり』をそうとしないためのアイテムのひとつとして花束を持っていくことをサニーは唐突に思いついた。
何か手土産にと、いつもなら小松が一番に喜ぶであろう食材やら食器やら、食にまつわるものを片手に出向くのが常なのだが、今回はそれを打ち破るためのものだ。持っていくわけにはいかない。
覚悟を決めて告白したのに、あっさりと『ボクも好きですよ』なんていうお決まりの友達感覚の台詞で答えられてはたまったものではない。
告白の言葉の種類は様々だ。何度も重なることによって色が重ねられて美しさを増すものもあるが、サニーが口にする予定のものは初回こそがもっともと美しさを放つだろう。
だからこそ、ほんの少しでも誤解などさせたくはない。
花束はそのためのもの。
インテリアとして必要な側面があるが、食卓に飾りきれないほどのものを選べばいいのだと思いついて、そこまででちょうど通りかかった小さな花屋の入り口をくぐる。
軒先には季節の花たちが飾られ、花を求める客人はもちろんのこと、通りがかりの人々も目を留められるようにと考えて置かれているのがわかる配置だった。
しかも季節の花というだけではなく、見た目の色合いのバランスも考えてられていて、その美しさと物言わぬ心配りが余計にサニーの視線を勝ち取ったのだ。
店に入ってすぐ、奥のほうにある作業台で小さなブーケを作っていた女性がサニーに気がついて穏やかな微笑みを浮かべる。
「いらっしゃいませ」
表情と同じく柔らかな声は、ただの挨拶だけでも好印象を持つことができた。そこもサニーの気に召して、彼は自然と唇を持ち上げて笑う。
「花束作って欲しいんだけど、いいか?」
「ええ、構いませんよ」
少しおまちください、と言って女性はブーケに使っていた道具を片づけ、切り取っていた花たちも丁寧に水差しのなかへとさして戻す。
客がいても花に対してぞんざいな扱いをしたりしないことにサニーはより好感を覚えた。
通りがかりの思いつきのようなものだったがここにしてよかったと、偶然に胸の内で感謝する。
女性は、とと、とサニーの横に並んだ。
背は小さく、小松よりも低いようでサニーからだと隣に並べばつむじしか見えない。それでも女性はサニーを首が痛くなるのではないかというくらいに傾けて彼をまっすぐに見る。
その仕草は小松を思い出させた。
客人に対しても真摯で真っ直ぐな態度は美しい、とサニーは無言の賞賛を送る。
彼女はサニーの内心には気づかずに、にこりと微笑みを深くしながら口を開いた。
「花束をご所望とのことですが、どんなものにしましょうか?」
「どんなって?」
「あら、ごめんなさい、抽象的すぎましたね」
慌てた様子で謝罪をし、女性が改めて先ほどの話に注釈するようにして説明する。
「花束はもちろん、お客様の意見を尊重しますから。どんなものがいいのかを私に教えていただくことになります。
そうですね。たとえば主体となる花の種類や、いっそ色で揃えるものいいと思いますよ。もちろん、ご予算を先に提示してもらって、好きに作ってくれという手段もありますけど」
後半部分については苦笑気味のものだったので、客人を和ませるための話題だったのだろう。
サニーもそれに気づいて、くくっと声を殺してつられて笑ってみせる。
「そいえばどんなのにするかは考えてなかったし」
「そうなんですか?」
「贈ることしか頭になかった」
これは美しくないかも、と呟いてサニーが顎に手を当てて考える。
小松に『いつも』ではないものを印象づけるために花束を思いついたのだ。なので、どんな花を取り入れるか、どんな色合いにすべきかなど、まったく意識の蚊帳の外だった。
これではあの大食らいと同じではないかと思いかけて、苦々しげに胸の内で舌打ちをこぼす。
「そうですか。でもそれは、花束を必要とするお客様の気持ちが強かったということですね」
だがそんなサニーの内心に気づいていないのか、それともあえて流しているのか、ふふ、と声をこぼして女性は笑う。
ぱちりと目を丸くするサニーを見上げて、さらに口を開いて続ける。
「ところで花束は誰かへの贈り物ですか?」
「……あ、あぁ、そだ」
「やっぱり。違っていたら申し訳ないんですけれど、恋人への?」
「は」
だがその内容にサニーが常の彼としては絶対にありえない間の抜けた声を上げて固まってしまう。
しかしサニーの反応は女性が質問していることが正解であると言っているようなものでしかなく、彼女は明るい表情で何度も納得した様子でうなずく。
「花束を贈りたい、という思いが一番強いお客様はたいていそうですから」
「…………」
これは多くの客人相手に培った経験によるものなんだろう。
行動を見て、相手の求めていることを察する。
花束を贈る理由はそれぞれでも、態度でわかるものだってある。
そこは才能ではなかなか埋めることのできないものだ。
見抜かれた感はあっても、イヤだという不快さは微塵もない。
サニーがちろりと隣を見下ろせば、女性はにこにこと笑っているだけでそれ以上はなにも続けない。
しばし沈黙が続いたが、その間にサニーは平静さを取り戻すことができた。開いていた口を閉じ、表情を戻しながら視線を女性から店の中で飾られている花へと滑らせる。
色とりどりに咲く花を見つめていると、なぜか笑う小松のことを思い浮かべることができた。
そしてそれを思い浮かべれば自然と唇がゆるむのを止めることができなくなる。
サニーの表情の変化を女性はこっそりと見ていたので、それをつぶさに目にすることができた。店に入ってきたところを目にしたときから様々な意味で輝かんばかりの風貌をしていたが、今では雰囲気からでもそうと感じ取ることができる。
笑む表情は思わず目を留めてしまうほどで、彼が胸のうちに思い浮かべているであろう相手への深いの感情の現れを示しているようだ。それはつまり彼女自身が言ったことがほぼ正解であるという無言の答えでもある。
女性が、あらあら、とつられて表情を緩めたのと同時に、サニーが振り返る。
−以下略−
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