次の日。
 冬の間じゅう降り続く吹雪は今は一時だけ遠のいていて、あたりは静かなものでした。
 夜明け前の静かな空気を耳と肌で感じながら、小松はひとり、水晶宮のなかで佇んでいます。

 見つめる視線の先には、色とりどりの花。
 冬でも咲いている花。
 ここは温室であり、冬でもなかは暖かなものでしたが、まるでここだけ季節と時間が切り取られて、止まっているかのようです。

 それを黙って見つめていた小松は、ふと、花が一片、風も無いのに散っていくのを目にしました。
 一瞬、びくりと体を竦め、目を見開いて地面に落ちていく様を見つめます。

「……あぁ。そっか」

 麻袋を頭からかぶり、そこに開けた穴から覗いていた目をゆっくりと細めて、こぼれ落ちるように呟きます。
 小さく息を吐き、顔を伏せました。

「そっか、もうそんなに時間がたってたんだ……バカだなぁ、ボク、前だったら忘れるはずなんてなかったのに……」

 紡がれる声は感情の色はなく、あくまでも平坦な独り言のようなものです。
 だからこそ、自分で自分の感情をあえて押し殺しているのだとわかるような、声でした。

 やがて伏せていた顔を上げて小松はもう一度視線を、花片を散らした花を見つめました。

「でも、ちょうどいいや」

 呟き、小松はくるりと踵を返して、その場から離れていきます。
 その背後でまたひとつ花びらが散って、地面に落ちていきました。



 何かを告げるかのように。






tasty dish and the Beast 12