日々は穏やかに、緩やかに過ぎていきます。

「…………やむか」
「はい」

 小松が言ったとおり、ゼブラが我に返ってから約二週間たった日、吹雪はもう少しでやむ、というところまで落ち着いてきていました。
 城の入口。
 森と、城とを繋ぐ巨大な門の側で、二人は並んで空を見上げています。

 視線の先の雪景色はまだ残っているものの、吹雪をさらす風は弱く、もう少しで止まりそうなくらいです。
 先の短い言葉を交わしたあと、小松もゼブラも、何も言わないまま時間だけが過ぎていきます。

「……いいかげん、長居しすぎた」

 やがて、何が切欠になったのかはわかりません。
 ゼブラが息を吐き出しながら、いつもよりゆっくりとした口ぶりで、話し始めます。

「そうですね」

 小松も、最低限の答えを返すだけで、いつもの饒舌はなりをひそめていました。
 ただひっそりと、短く首肯するだけです。
 麻袋に開いた穴の向こうの眼が、細められていきます。

「世話になったな」
「はい」

 こくん、と小松が小さく頷きました。表情は、見ることが出来ません。

「戻る」
「……はい」

 最初に言ったのは、「吹雪の間は危ないから、その間だけでもここにいるように」とのこと。
 それは吹雪が止めば、止める理由もなくなるのです。

「小僧」
「はい?」

 呼びかけられ、小松は先ほどから幾度も繰り返していた短い答えに疑問符をつけて、思わず顔を上げて隣にいるゼブラのほうを見上げました。
 小松を見下ろしていたゼブラと視線が合って、自然と二人は互いを見つめます。

「一度、戻る」
「…………はい?」
「だから、一度戻ると言ってるんだろ」
「え、え、でも、」

 ゼブラの言葉の意味がわからず、小松はオロオロとし始めます。
 さきほどからゼブラが口にする言葉は、「でていく」というものではなかったからです。
 『戻る』というもの、そのうえで『一度』という単語をつけることで、それはまるで。まるで。

「一度戻らねぇと口うるさいのがいるからな。
 そいつらに顔を見せたら、ここに戻る」
「……えぇぇぇぇぇぇ……?」
「なんだ、不満でもあんのか?」
「ふ、不満っていうか……!」

 ふるふると思わず首を横に振ってから、ゼブラの口にする言葉が何かおかしいということに考えを巡らせました。
 だって、
 だって、それは、

「……吹雪の、間だけ、じゃ」
「…………まだ吹雪は続いてるだろ」
「えー……」

 確かに小松が言ったのは、吹雪の間はここにいたほうがいい、というものです。
 ですがそれは、言わば危険を回避するための一時的な処置であって、吹雪が続く季節の間ここにいてください、というものとは違います。
 けれど、ゼブラが言うには後者の意味でもあるようでした。

「何か文句あんのか?」
「…………」

 そしてゼブラも、あえてその意味に取っているのは、小松にだってわかりました。
 目を丸くしてしばし黙り込んだあと、半ば呆然としたまま、無意識に口を開きます。

「……いいえ、」

 それは、自分でも何を口にしているのか気づけないくらいに、無意識のままに紡がれていく言葉でした。

「また、来てくれますか?」
「そう言っただろう、小僧」

 その言葉に、小松は何も言わず頷きます。
 言葉もなく、音も無く。






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