夢から目を覚ますと、まだ室内は夜の闇が色濃く残っていた。
「…………はぁ……」
思わずついた溜息には、どことなく緊張感にも似たものが滲んでいる。
目覚めた小松は、自分の体中、つまり全身が寝汗でべったりとしているのを感じて二重に溜息をつきたい気分になった。
寝付きは良い方の小松は一度眠ってしまえば朝まで目覚めることは、ほとんどない。
ほとんど、というのは、たまに目覚めてしまうこともある、ということだ。
たとえばそれは、言い知れない『こわいゆめ』を見たとき、など。
子どもでもないのに、恐い夢で目が覚めるなんて、と思いながらも、眠りは遠くに引いてしまっていた。
夢の内容は、よく覚えていない。
覚えていないほうが、いいくらい。どうしようもなく『こわい』ものであることは、小松は感覚だけで覚えている。
思わず目覚めて、寝汗をぐっしょりとかくくらいには、恐ろしいものであることだけは確かだった。
このまま悶々としているにはあまりに無為で、けれどまた眠る気にもなれず、ことりと横に寝返りを打とうとしたところで。
「うぷ」
その動作が半ば止まってしまった。
何てこと無い。小松が寝返りを打とうとしたところで、その進行方向が邪魔された、ただそれだけの話だ。
「……?」
何がどうなっているのかと思案を巡らせようとして、体を少しずらしたところで……小松は、ようやく今、自分がどこにいるのかを思い出した。
どうやら目覚めたと思っていても、まだ思考回路のほうは繋がっていなかったようだ。
眠る小松の隣には、同じくベットの上で横になっているトリコの巨体が横たわっていた。
小松が目覚めたことには気がついていないようで、グースカと、見ているこちらの気が抜けるような寝息を立てて眠っている。
その音に、小松は思わず体の力を抜いてしまう。
ぽかん、として体を動かそうとしたところで、小松の足先がさらに別の何かに触れた。
視線を下ろせば、足下には純白の毛玉……玉、というにはいささか語弊がある……が丸くなっていた。
極上のタオルケットにたとえられる毛並みは、足先にほんの少し触れただけでも気持ちいいくらいだ。
ちなみに、丸くなっているテリーに寄りかかるようにして、薄い色合いの子ペンギンが気持ちよさそうに眠っていた。
たまに、ユーン……という、小さな鳴き声が聞こえてくる。どんな夢を見ているのかはわからないが、その表情を暗がりから眺めるだけでも、悪い夢を見ているわけではないようだ。
「…………あは、」
トリコと、テリーに子ペンギン。
彼らの寝顔を順繰りに眺めたところで、小松の体からは完全に強ばりが解けてしまっていた。
こみ上げてくる微笑ましさをどうにか堪えながら、小さく息を吐く。
寝汗でべとべとになってしまったパジャマを上だけ脱いでシャツだけになると、もう一度小松はベットの上で横になって、そのまま目を閉じた。
瞼の裏には、闇がある。
それでも、目を閉じても聞こえてくる寝息があって、自分のまわりには安心できる気配もあった。
小松はそのまま意識をすぅ、と手放していく。
もう、さっきの夢のことは、覚えてはいなかった。
こわいゆめを見ない方法。