水晶宮は、ハープや野菜などが作られていましたが、多種多様な植物たちもいくつも植えられていました。
なかでも、花々はこの地方にはないものが目に留まります。
鮮やかな花の色です。
「この外が吹雪だってのが信じられないくらいだな」
ゼブラが呟きをもらしましたが、それを聞くものは誰も居ません。
いえ、ゼブラのほかにも水晶宮にいる人物も、そして動物たちもいますが、彼以外の全員が眠りのなかに落ちていました。
ゼブラの肩にもかれかかるようにして小松がスヤスヤと寝息をたてています。その彼の腕に抱かれて子ペンギンも眠り、テリーは少しだけ離れた位置でしたが、丸くなって顔を伏せています。
「………………ちっ。チョーシに」
は、乗っていません。
三者が眠り始めたのはおやつのあと。
どうやらお腹がいっぱいになったのと、小松は料理を終えた達成感でホッとしたのでしょう。
もたれかかったまま、起きる気配もありません。
開けかけた口を閉ざし、ふん、と鼻息を鳴らしてゼブラは大木の幹に背を預けました。
顔を上げれば地上にある野菜たちではなく、花々が姿を見せています。
(…………?)
ふと、それを見たときにゼブラは何か言い知れない『違和感』を覚えました。
ここは気温を一定に保っている温室です。蒸し暑いと感じるほどではありませんが、過ごしやすい一定の室温に保たれているのです。
(……なんだ……何が、おかしい)
頭のなかで考えながら思案を巡らせますが、その答えにゼブラは辿りつくことができません。
睨み付けるかのように見つめる花々も、答えることなく沈黙を続けていました。
ただ、温室のなかの押し潰されるような威圧感だけが、増していきます。
…………ウォゥ。
それに気がついたテリーが眼を開けてゼブラのほうを見ます。
暗に『何かあったのか?』と視線だけで問いかけてくることがわかるかのようでした。
視線に気がついたゼブラは、フッと全身から放たれていた気を消しました。
それ以上は何の行動も起こしませんでしたが、テリーはゼブラからの反応がないことには気にする素振りはなく、また顔を伏せて眼を閉じます。『何にも無いならいい』という意思表示でしょう。
さすがに動物相手に凄むわけにもいかないので、ゼブラはまた視線を上にあげて花を見ます。
ここに、風はありません。
「…………うー…………」
ことん、と。
しばらくしてゼブラの隣でうたた寝をしていた小松が何やら呻くような声を上げました。
ゼブラが視線を落とすと、小松は何やらむにゃむにゃと口の中で意味不明な言葉を呟いています。
「何言ってんのかわかんねーな」
文字通りの意味での地獄耳でもあるゼブラの鼓膜を持ってしても、その内容は聞き取ることが出来ません。
本当に意味不明なものだったのです。
それを聞くだけでゼブラは全身の力が抜けていくのを感じます。
「間抜け」
ズバリと切って捨てる勢いで言いますが、小松からの返答はありません。
いつもなら、すぐに『また間抜け、て!!』とうるさいくらいの反応を返すのですが、今はまた眠りの世界に捕まってしまっているのでしょう。反応はありません。
頭から被っている麻袋からのぞくのは、閉じられたままの瞼。
それ以外を目にすることは出来ません。
「………………」
その麻袋に、ゼブラは手を伸ばしました。
今もし、その手をこのまま伸ばせば、小松の素顔を見ることが出来るでしょう。
とてもたやすく。
「………………はぁ、」
溜息をひとつ。
けれど、ゼブラは自分の手をそれ以上伸ばすことなく、膝の上に投げ出すかのように下ろしました。
ぽすん、と小さく空気を揺らします。
ゼブラの他には、誰も目を覚まそうとしていません。
「ちったぁ警戒しろ」
いつかと同じ言葉をゼブラは口にしました。
「無防備すぎやしないか、小僧」
紡がれた言葉は彼以外に聞くものはおらず。
ただこぼれて落ちていくだけでした。
(まあ、このあと、小松が「……それはボクの分です、食べちゃ嫌です……」などと寝言を言って、呆れ果てたゼブラに起こされるという一幕がありましたが)
tasty dish and the Beast 10