城の中は確かに街でも見られないような珍しいもので溢れていましたが、それでも三日も過ぎればほとんど見終えてしまいました。
もちろん、美術品のほとんどに興味を示さなかったゼブラにとって、それはもうすでに目新しいものを見ることが出来なくなった、ということになります。
外は相変わらずの吹雪が、朝も昼も夜も、関係なく吹き荒れています。
必然的にやることもなくなり、無為に時間を過ごすことが多くなりました。
そんな時の楽しみはと言えば、小松が自ら振る舞う料理の数々です。
朝昼晩。
そしておやつ時など。
「ゼブラさん」
「なんだ」
「何かリクエストとかってあります? さすがに、時期が時期なので備蓄食材とか、あとは水晶宮で取れるものの中からっていう制約が出ちゃうんですけど」
「うまいもの」
「それってリクエストじゃないですよね!?」
小松は盛大にツッコミを入れたのですが、ゼブラは本心からそう思ったので嘘ではありません。
うまいものが食べたい。
単純明快な、そしてなんとも料理をする側を泣かせてくれる注文。
けれど小松は、「もー……せめて好みとかわかったら料理も決めやすいのに……」とブツブツと文句を言い、それを「テメー、調子に乗るな」と、ゼブラに凄まれて、にゃー! などど悲鳴を上げたりもしていますが、この時点でもリクエストは完遂していたのです。
料理のひとつひとつ。
作られるもののすべてが、一つとして手抜きなく、小松は料理を作り上げていたからです。
美味しい物を食べて欲しいという純粋な思いと一緒に。
それは、ゼブラにも伝わっていました。
最初の一口から、思わず言葉がこぼれおちてしまうくらいには。
ですが、料理をしている以外では、やはり暇になることは多々としてあります。
細々とした掃除や洗濯、あるいは部屋の片付けなどしていても、大部分が使っていないこともあっていつもするわけにもいきません。
そんな時、小松は件の水晶宮のなかで植物の世話をして過ごすこと常でした。
ミント、レモンバーム、オレガノにマジョラム。
ローズマリー、アニス、アンゼリカ。
コリアンダーにフェンネル。
ケッパー、などなど。
「今度はシソっていうのを植えてみようかと思っているんです」
それらを細々と世話をしてやりながら、小松はそう言いました。
普段から軽装なのは、こうやって働くせいなのかもしれません。今も、土まみれの手を軽く叩きながら顔を上げて振り返ります。
「食えんのか?」
「んー、食べられると言ったら食べられるんですけど、どっちかっていうと匂いつけとかのほうが意味合いが強いかもしれませんね。
一種のスパイスみたいなものだと思ってください」
彼の視線の先には、水晶宮のなかに植えられた赤い花をつけた巨木に幹に寄りかかって腰を下ろしているゼブラがいました。
足下には、ゼブラの強面にもすっかり慣れた子ペンギンが彼の片足を半ば抱き枕のようにして抱きついています。
ちなみにテリーは、小松の後ろのほうで行儀良く座っています。大きさに目を瞑れば、飼い犬のようにも見えました。本来は狼(?)なのですが。
「肉に挟んで揚げたりとかすると、食べたときに口の中ですぅーっとして美味しいんですよ」
「…………」
「えへへ、ゼブラさんにも食べさせてあげたいです」
本当に美味しいんですよー、と小松はその味を知っている様子で、双眸を崩して笑います。
それはほとんど麻袋に隠されて見ることは出来ませんが、柔らかく細められた眼で、それを知ることが出来ました。
「いつオレが食べたいって言った」
「え、だって頬のところからよだれ……」
「ああ!?」
「だから凄まないでくださいよー!!」
たまに恐いゼブラの反応にも、小松はもう慣れた様子でした。いまだに、にゃー! と声を上げたりはしていますが、心の底から怖がったりはしていません。
少なくとも最初から、小松はゼブラを心の底から恐怖したりはしていないので、当たり前のことなのです。
ユンユン!
クゥー……
「え、お前たちはもう食べたことあるんじゃ……? あ、もしかしてそろそろお昼?」
ウォウ。
「じゃあ、ここの水やりは後にしとこうかな……っと」
テリーと子ペンギンとのやりとりは、言葉はないものでしたが、小松は割と平然と彼らの言いたいことを理解しているようでした。
そして先の二匹も、小松の言葉を理解している様子で、頷いたり鳴き声を発したりして、意思疎通を図っているのです。
ここは長年のやりとりのたまものとも言えるでしょう。
……長い、長いあいだ、この城には彼らしかいなかったので、必然的なものだったのかもしれません。
小松がパタパタと水晶宮から出入り口へと走り去っていくのを見送り、しばらくの間ゼブラは何かを考え込んでいる様子でしたが、やがて足に抱きついたままの子ペンギンを脇にどかし、その場からのっそりと立ち上がりました。
ユーン?
ウォウ?
ゼブラに、二匹が揃って疑問の声をかけますが、答えは返ってきませんでした。
かわりにゼブラは置かれていた大きめのジョウロを手に取ると、そのまま水まきを始めたのでした。
それを見つめ、テリーも子ペンギンも何か言いたげに顔を見合わせましたが、やがて合点がいったのかそれ以上は何もせず、二匹それぞれに過ごします。
こうして、日々はゆるやかに、穏やかに、過ぎていきました。
tasty dish and the Beast 09