広い城の中は、それなりに珍しいものに溢れていましたが、それでもゼブラは興味がないものに対しての反応はとことん薄いものでした。

 たとえば、城の中にある数多の財宝を前にしても、驚きも薄く、また感嘆することもなく、実に淡々としたものだったのです。

「ゼブラさんは、こういうのは興味がないんですね」
「あぁ? こんなもんあっても邪魔になるだけだろ」
「いやいや、一応、それなりに価値があるはずなんですけど……」

 都で売り払えば『それなり』以上のものもあります。
 絵画や、調度品。
 あるいは美術品。
 別の部屋には名工が作り上げた一級品のものまで一揃えしてあるのです。

「興味がない」

 しかしというか、やはりというか、ゼブラはバッサリと切り捨てます。

「だいたいな、こういうのをホイホイとひとに見せんな」
「でも、ゼブラさんは興味がないんですよね?」
「オレ以外のヤツが見て、どんな気を起こすかわかったもんじゃねぇだろーが」

 てめぇはもう少し警戒心を持て、とゼブラは言って、別の部屋を案内するようにと無言のまま宝物庫に背を向けました。
 横に立っていた小松はそれを半ば呆然とした顔で見送っています。

「……この城にやってくるような人は、いませんよ……?」

 やがて我に返った小松がぽつ、と小さな声で呟きました。
 聞かれない程度の、自嘲めいた一言だったのですが、それをゼブラは難無く拾い上げます。

「てめーの警戒心の無さは筋金入りだろ。この間抜け」
「間抜けとまで言いますか!?」

 幾度となく繰り返されるからかいめいた言葉でしたが、小松はすぐに我に返って慌てた様子で先を行くゼブラの後についていきました。
 ととと、と近寄ってきた小松に合わせるようにして、ゼブラも歩き始めます。

 小松は、ちらりとゼブラを見上げました。
 下から見上げるせいもあって、相手の表情は少しわかりづらいものでしたが、それでも麻袋に開けた穴の向こう側から、ジッと見つめています。

「…………ちょっとくらいなら、持って帰ってもいいですけど」
「いらん」
「いいんですか?」



 (そのくらいしか、あげられるものはないのに)



「何度も言わせるな。あんな腹の足しにもならないもん、必要ない」
「売ればそれで食事が出来ると……」
「んな手間かける真似が面倒だ」

 そんなことを言い合いながら、二人はさらに城の中を進んでいきます。



 □



 先にも挙げたとおり、ゼブラは自分の興味がないことにはとことん反応は薄いのですが、逆に興味のあることには割と素直に食いついてきます。

 たとえばそれは、

「……これでよし、っと。
 ゼブラさーん、おやつできましたよー」

 食べ物であったりすると、反応が顕著でした。
 窓を開ければ中庭を臨むことが出来るキッチンから顔を出し、小松は水晶宮にいるであろう相手を呼びます。

「あと、テリーたちも連れてきてくださいねー! 多分、そのなかで二匹揃って遊んでると思いますからー」

 あいにくと返事はかえってきませんでした。
 けれど小松はそんな反応に気にした様子もなく、山盛りに盛りつけたパンケーキを運ぶ準備をし始めます。
 蜂蜜と、乾燥果物。
 たっぷりのクリームと、ソース。
 それぞれ自分の好きなように盛りつけられるように、と容器の準備をしていると、食卓に続く扉が開く音が聞こえてきます。
 小松はパンケーキを乗せた銀のトレーを持って、自分もキッチンから出てきました。

「小僧。オレをパシりに使うたぁ、チョーシに乗って」
「ません! 全然乗ってませんから!!
 あ、でもちゃんと連れてきてくれたんですね! ありがとうございます!」

 凄んできたゼブラに勢い良く首を横に振ってから、小松は急いでお礼を言いました。
 ゼブラの隣にはテリーが、そして彼の腕には子ペンギンがちゃんと抱き上げられています。

「お礼に、ゼブラさんのにはクリームたっぷりにしますね」
「………………」

 チッと舌打ちをうつ音が聞こえてきましたが、それ以上、空気が張り詰めることはありませんでした。

 たとえば、そう。
 こうして小松の『おねがい』をちゃんと聞く程度には、ゼブラは彼の作るものに対して自分から動くのも深く文句を言わないのです。






tasty dish and the Beast 08