次の日。
厚い硝子窓の向こう側で吹雪がカタカタと格子を揺らす音で、ゼブラは目覚めました。
「おはようございます、ゼブラさん」
すると、間髪入れずにベットの向こう側で小松の声が聞こえてきます。
ゼブラがベットから半身を起こすと、寝室に続く扉を半分開けたところで、相変わらず麻袋を頭から被ったままの小松がこちらを見て立っていました。
「ちょうど良かった。朝ご飯が出来たんですけど、」
「すぐ行く」
「……はぁい」
『食べますか?』という問いは途中で打ち切られる形になりましたが、それだけ食べるのを楽しみにしてくれていると受け取って、小松はくすり、と嬉しそうに笑みを零します。
(昨夜、最終的に「ごめんなさい!」と謝罪まで始めてしまった小松を、ゼブラが半ばキレる形となって「謝る必要なんかないから、もっと食わせろ」(要約すると、だいたいこういう意味)と言ったことで、『何はともあれ、自分の作ったものを喜んでくれた』と受け取る形になったからです)
「じゃあ、スープとか入れておきますから、あとはゆっくりどうぞ」
「てめーは一緒じゃねぇのか?」
小松の話すニュアンスが『一人で食事をしろ』というものだったので、ゼブラは問いかけます。
「ボクはあとでいただきますから」
「? なんで別にする必要がある」
ゼブラがそう問い返せば、小松は目を丸くしたあと、困った様子で目に見えてオロオロし始めました。
その様子にゼブラが何となく、また面倒なことを思ってるんじゃないだろうな、という予測をつけたところで、
「あの、ボクなんかが一緒に食事をするのは……」
やはりというか、小松は小さな声で呟きました。
「一緒だと何がまずい」
「……嫌じゃないんですか?」
「あ? てめぇ、何好き勝手にオレの心情を決めつけてやがる」
「そういうわけじゃなくてですね!」
一瞬で背後のオーラが重苦しいものに変わったのを察して、小松はブンブンと大きく首を横に振りました。
「だ、だって、頭から袋かぶってますし!」
「取れとは言ってねーだろ」
「目障りじゃない、です、か?」
「お前のその卑屈すぎる態度のほうが目障りだ」
「別方向からすっぱりダメ出しされた!」
おそるおそる小松が問いかけるものにもゼブラは淡々と答えるだけです。
(まあ、ダメ出しされるのは、仕方ないとして)
「で。食うのか、食わねぇのか。どっちだ」
そして、最終的にゼブラの問いはそれに修まる形になりました。
問われ、小松は視線を右往左往させて心底困った目をしていましたが、ゼブラも彼から視線を外そうとしません。
ただひたすらに、沈黙だけが流れます。
「……い、いっしょに、食べても、いいですか?」
「最初からそうしろ」
小松もまた、オロオロとしながらもそうしてゼブラの意向に歩み寄ることになりました。
彼の答えに満足したのか、ゼブラは横になったままだったベットから降りて簡単に身支度を調えます。
「あ、あの」
「あ? まだなんかあんのか」
「その、ボクはいつもこの城に残ってる動物たちと一緒に食事を取ってるんで、彼らもいっしょでいいですか?」
「ペットか」
「……似たようなものですけど、ボクの家族みたいなものです」
「別に。好きにしろ」
「はい!」
先ほどとは打って変わって明るく小松が頷きます。
「それと、あとでゼブラさんの着替えも準備しないとですね! 城のなかには一応、古着なんかがあるんでそれを……」と矢継ぎ早に小松は語り始めます。
元々、気を許せば人懐っこい性格なのでしょう。
ゼブラの短い返事や、たまにくる無言の視線にも、小松はニコニコと笑って何でも無いことのように返事をするのです。
立ち上がって隣にいれば、体格差の関係上、ゼブラは下を向かなければ顔を見ることは出来ません。
けれど、それをめんどくさがる様子もなく、律儀に彼は小松を見下ろします。
「小僧」
「はい?」
小僧呼ばわりされるのも、小松はもう気に止めないことにしたようでした。
呼ばれ、小松が顔を上げてゼブラを見つめながら、小さく首を傾げます。
「今日は何だ」
「はい。今日は、東洋風にしてみました」
「東洋?」
「大陸の向こう側の料理ですよ。えと、麦じゃなくて、米っていうものを使ってるんですけど……」
雪で閉ざされた、深い森の奥。そこに建てられた城。呪われ、歪んでしまったがゆえに人の姿が他にはない。
ランプのあかりに照らされながらも、まだ少しだけ薄暗いそのなかで、二人の話し声は、いつまでも途切れることはありませんでした。
tasty dish and the Beast 06