小松はゼブラに、自分が昔、魔法使いによって魔法をかけられた身であることを話しました。

「完全にてめぇの落ち度だな」
「全否定ですか!?」
「どこで何してるのかもわからないような輩をホイホイ受け入れるからだろうが」
「うぅぅぅ……言い返せないぃぃ……!」

 すべてを疑ってかかるべきではありませんが、とりあえず自分の身を守れる程度の警戒心はつけておけ、という教訓なのかもしれません。
 もっとも、ゼブラは凹んでいる小松を一瞥しているだけで、温情のある言葉をかけようとはしないのですが。

「それにしても、『魔法』、なぁ……」
「本当のことです。見せられれば一番の証明になるんでしょうけど……」

 小松はそう言って言葉を濁します。
 魔法をかけられた身は、自身の姿を見せれば一番の証明になりますが、小松はそれをもっとも恐れていました。
 先ほどの過剰なくらいの拒絶にも、その心情は表れています。

「別にいい」
「……いいんですか?」
「興味がない」

 バッサリと切り捨てられましたが、ゼブラの反応こそが小松には意外でした。
 見せろ、と言われるものと思っていたからです。
 何より人という生き物は、禁止されているとそれをやってみたくなるという人物が多いものです。野次馬根性に近いでしょう。
 しかしゼブラはまったく興味がないのか、それとも小松が見せたくない、というのを尊重するのか、麻袋を取ることを強要したりしませんでした。

 (……ゼブラさん的には、前者なんだろうけど)

 こっそりと小松はそう思いました。

「なにか言ったか?」
「いいえ、何も」

 思っているだけで口に出してはいないので嘘ではありません。
 小松はホッと胸を撫で下ろしました。同時に、ゼブラに心の置くで感謝します。

 さらに二人の話は続きます。
 続いて話に登ったのは、ゼブラがどうしてここにいるのか、ということでした。

「森で倒れていたところを見つけて……えと、ゼブラさんは『白雪姫花』の花粉にやられていましたし」

 『白雪姫花』とは、その名の由来ともなっている白雪姫のように、花粉を少しでも吸い込んでしまったらその場で昏倒してしまうという代物でした。
 ただし、毒ではなく、本当にただ意識を失ってしまうだけなのだそうです。
 花は群生しており、冬になる直前に一気に開花し、花粉をあたり一面に飛ばすため、森に住む動物たちは本能的に近づいて来ようとはしないとも、小松は重ねて言いました。

「体に害がないならそのまま放っておけば良かっただろう」

 それを聞いたゼブラは小松にそう言います。
 確かに小松は人前に出るのを、ひいては自分の姿を誰かに見られてしまうことを恐れていたので、ゼブラも放っておくほうが自然だろうと思ったのでしょう。

「……その、あの花粉は確かに眠るだけで害はありません。
 でも、目覚めるまでにかかる時間が問題なんです」
「…………どのくらいだ」
「軽く見積もって、多分、放って置いたらゼブラさんは一週間は意識を取り戻せなかったはずです」

 さすがにそれで放っておくのは気が引けた、と小松は眉を下げました。

「一応、城にはあの花に効く薬がありましたから、ここまであなたを連れてきたんです」
「で、オレが目覚めたのか」
「それでも、目が覚めるまでに三日もかかっちゃいましたけど……」

 小松は簡単に言いましたが、つまりゼブラが目を覚ますまでに三日。
 さらに今日一日の時間を加えて、四日の時が過ぎていることになりました。

「………………それで、その」

 そこまで話したところで、話しにくそうに小松が視線を逸らします。

「なんだ。モゴモゴ聞こえづれぇ、はっきり喋れ」
「……実は、昨日から外は吹雪が始まっちゃって……」
「…………ああ」

 なるほど、とゼブラは頷きました。
 塗り固められた窓のせいで外は見えないので気付きませんでしたが、この地方の吹雪は深く、そして荒れ狂うほどの猛威を奮います。

 吹雪になる前に帰れ、とゼブラの昔なじみが忠告したのは、そのせいでした。

「この森の吹雪は一週間か二週間くらいで一度去るんですけど、それまで外に出るのも、ましてや移動するのも、やめておいたほうがいいと思うんです」
「そのようだな」
「………………」
「………………」
「…………何か言ってくださいよぅ!」
「うるせぇ! てめぇが何か言おうとしてんのをわざわざ待ってやってんだろう!」

 ぐだぐだと面倒くさいこと考えずにさっさと言え! とゼブラは半ば小松を脅します。
 凄まれ、小松はビクンッと体を竦ませますが、意を決してゼブラを真っ直ぐに見つめました。

「それまで、ここにいたほうが、いいと思います」
「ここにか」
「……ボク以外の人間は誰もいない、『魔法にかけられた』城ですけどね」

 呪われた、とわざと小松が言わなかったのはゼブラにもわかっていましたが、追求することはありません。

「……小僧」

 (小僧ってボク!?)

「食事は出るんだろうな」
「え」
「『え』、じゃねぇ。出るのか?」
「も、もちろんです……」
「世話になる」
「早っ!」

 思わず小松がツッコミを我慢できなくなる程度には、ゼブラの決断は即決そのものでした。
 (もちろん、吹雪が止むまでは動くのは得策ではなく、食事も出て安全な居住があるのならここに留まることに何ら問題はない、というのもあるのですけれど)

「あぁ? てめぇがここに残れっつったんだろう」
「それはそうですけど! いえ、そのほうが絶対いいんですけど!!」
「ならずべこべ言うな。さっきも言ったぞ」

 いろいろと言いたいことは小松にもありましたが、とにもかくにも、こうしてゼブラは小松とともに、この城で過ごすことになったのでした。



 さて、
 さすがに隠し部屋では外も見えず(雪景色しかありませんが)、光もない、ということで、夕食を平らげた後に小松はゼブラを別の部屋へと案内することにしました。
 陽の落ちた暗い廊下を蝋燭の明かりを頼りに進んでいたとき、ふと。



「おい、小僧」
「……なんでしょう?」

 小僧と呼ばれるほど幼くはないのですが、言い返しても聞いてくれなさそうなので自分への呼び方には半ば諦めの境地で小松はゼブラを振り仰ぎました。

「この城にはお前以外誰もいないんだったな」
「はい」
「あの食事はどうした」
「あ、あれはボクが作りました」

 …………沈黙。

「……お前が?」
「はい。あ、もしかしてお口に合いませんでしたか? それとも量が足りなかったとか……」

 むしろ美味かった、と、
 ゼブラはそれを明かすことなく、それとも嫌いなものがあったとかですか!? 我慢してたんですか! と、別方向にヒートアップしつつある小松を見下ろしていました。
 その顔に浮かぶ感情が何なのかを、どちらも知らないままに。






tasty dish and the Beast 05