窓の向こうは、壁でした。
テーブルの上に並べられた料理をすべて平らげたあと、青年はとりあえず部屋のなかを散策してみることにしました。
『自分が移動できる』部屋は二つだけ。
ドアは青年が目を覚ました暖炉のある部屋と、食堂を繋ぐものがひとつあるきりでした。
「……隠し部屋か?」
豪奢な室内を見て、青年はここが世間とはかけ離れたもの、つまり『やんごとなき身分』の人々が暮らすものだと思い至っていたのです。
外に出るための扉がないのは、ここが隠し部屋で、出入りを制限しているせいなのかとも思いました。
そして、カーテンの開ければ、窓はありました。
ある、というだけで、そこから外を見ることは叶いません。
何しろ、窓の向こうはすべて分厚く塞がれてしまっていたのです。
(隠し部屋なら『外から見えなくすることも必要』なのかもしれねぇが……
出るのは簡単だ。ここを壊せば、事足りる)
拳ひとつ。
なによりも、声さえあればそれを可能とすることが、青年にはできました。
けれど青年はここから出て行くつもりは始めからありません。
「聞きたいことがあるからなぁ」
ニィ、と青年は笑いました。
どこか楽しそうに、けれどどこか底冷えしてしまうような、迫力のある笑みを浮かべて呟きます。
しばらくして、
すべてを平らげたはずの食堂に青年が再び移動すると、食卓の上には新しい料理が並べられていました。
「……あぁ?」
乱雑に置いてあっただけの皿も、食べかすも、テーブルクロスも、すべてが整然としています。
ちなみに、今回置かれていたのは、サンドイッチとスープでした。
しかもサンドイッチは様々な種類が組まれていて、同じ味は一つとしてないようにも見えました。
青年は、それをまた全部、余すところなく食い尽くしました。
しばらくして、
「………………」
『また』、暖炉の部屋から食堂へと移動すると、食卓の上には新しい料理が並べられていました。
(……あれから何度か行き来はしたが、変わったのは周期がある)
何が新しく料理が出てくる切っ掛けになっているのかと青年が考え、すぐにそれが『食事時』である、という法則性に気付きました。
(最初が朝食、次が昼食、今回が夕食ってことか。
……だとすると、今は『夜』ってわけか?)
外の光もなく、この部屋には時計がひとつもなかったので、確認することは出来ませんが、並べられているメニューからそれを予想します。
前々回も、前回も、そして今回も、並んでいる料理はどれも芳しい匂いとともに、何とも青年の食欲をかきたててきました。
「このあたりでいいか」
グゥ、と鳴る腹の音を無視して、青年は呟きました。
それは聞くものの背筋を震え上がらせるほどの威圧感を与えるほどの、地を這うような低い声。
「出て来い。そこにいるのはわかってんだ」
ある一点に向けて、迷うことなく青年は告げました。
「こそこそと隠れてこっちを覗きやがって、てめぇ……チョーシに乗ってんじゃねぇぞ……?」
そこは何の変哲も無い壁でした。
けれど青年は『そこに誰かがいる』という確信を持って、視線を逸らすことなく、焦れた様子で一歩を踏み出します。
ずん、と響く、足音。
「出てこねぇ気なら、こっちから行く」
実力行使に出ようと、青年が拳を握りしめたところで、
『ま、まってください!』
青年のものではない、もうひとつの『声』が、部屋に響きました。
tasty dish and the Beast 03