様式美というか。
 よく使われたネタというか。
 どっかで聞いたことのある話なんだけど。

 付き合ってはじめて誕生日を迎えた恋人から、「誕生日に何か欲しいものはありますか?」、って聞かれた。

 あー、こういうシチュエーションがオレにも訪れたわけか、と、聞かれたときはちょっとした感動さえ覚えたくらいだ。
 (何しろ、自分がそんなどこぞの恋愛小説のような、悪く云えば使い古された三流小説もいいところの出来事が起こるなどと、予想もしていなかったからだというせいもある)
 (ん。聞くのと、自分で体験するのとでは、やっぱりというか、胸に来るものが違う)

 衝撃ではなく。
 衝動でもなく。
 たとえようもなく、甘やかなものでもなく。

 ただただ、くすぐったさだけが、そこにはあって。

「…………じゃあ、お前」
「………………はい?」
「だから、お前」

 だから。
 まあ、何を血迷ったのかと後から言われそうなものだけど、つい、ぽろっと、使い古されたネタなら返し方だってポピュラーなものが一番だろう? という結論の元に、そう返事をしていた。

 欲しいものは何ですか、と聞かれて、お前が欲しい。

 ……誕生日なんていうイベントがなければ、こんな歯の根が浮くような台詞が言えるわけがないのだが、そこは『イベント事だから』とどこぞの誰かに許してもらうことにしよう。

「……あのぅ」
「ん−?」
「その、トリコさん、えっとですねぇ」

 ただ、自分の『答え』に恋人はと言えば困ったような複雑そうな顔をして言葉を濁してしまう。
 照れているのではなくて、困っているのだ。

「『ボク』はもう、トリコさんにあげちゃってますから、プレゼントできないんですけど」

 突拍子もない暴露が出てきた。
 思わず言葉を無くしてしまっているのにも気付かず、さらに話は続く。

「どうしましょうか?」
「どうしましょうか、って……お前んな爆弾発言しといてスルー前提かよ!」
「え?」
「え」

 誕生日という、恋人同士の重要なイベントごとに何とも言い難いものを暴露されてわけで。





その後の話し合いの結果、『半同棲』することで「お前がほしい」の着地点としたそうです。