>むかし、むかし……
むかしむかし、森深き場所に建つ城に住む、心優しい王子のお話。
王子はとりたてて容姿が優れているわけではなく、人より少しだけ鼻ぺちゃでしたが、料理がとても上手で誰からも好かれていました。
いつもにこにこと笑っていて、その笑顔にみんな心を和ませていたのです。
ある日のこと。
城に一人の魔法使いがやって来ました。
王子に仕える人々は、人と離れて過ごすはずの魔法使いがどうして城にやって来たのかと不審に思いました。けれど心の優しい王子は城にやって来た魔法使いを客人として受け入れ、心を込めて料理を御馳走しました。
王子の心づくしのもてなしを受けていた魔法使いは言いました。
王子よ、私のものになれ。
突然のことにまわりは驚き、何を言い出すのかと悲鳴が上がります。
黙り込んでいた王子はしばらく考え込んだあと、困ったように答えました。
ごめんなさい。ボクはあなたのものにはなれません。
心を込めた謝罪を、しかし魔法使いは諦めません。
なぜ、なぜ、と。
なぜ私のものにならないのだ、と。
私はお前が欲しい。お前の作るものを、私だけのものにしたい、と。
王子は答えます。
ボクの料理をそこまで褒めてくださってありがとうございます。
でも……、と。
でも、あなたは、
そこまで王子は言いかけましたが、最後までその言葉が発せられることはありませんでした。
王子がけして自分のものにならぬと悟った魔法使いが激怒して、王子に魔法を、−呪い−を放ったのです。
呪いはすぐさま王子を呑み込み、王子だけではなく城を、森を、暗く深く堕としていきました。
魔法使いは言いました。
これは−呪い−だ。
私の心を踏みにじった報いだ。
王子よ、この呪いはけして解かれることはない。
私の元にやって来るか……あるいは、お前を真に愛するものが現れるまでは、けして!
古来より、邪悪な魔法を解くのは真の愛と、定められています。
けれど、魔法使いは嗤いました。
邪悪に嗤いました。
だが、お前の姿は呪いによって誰よりも、何よりも、醜く歪められてしまった。
王子よ、考えてもみろ。
そんな姿のお前を誰が『真に愛してくれる』?
魔法使いはそう言い捨てて姿を消しました。
後に残ったのは、呪いによって歪められてしまった城。
暗く堕ちた深い森。
歪められたがゆえに消え去ってしまった人々の姿はなく、呪いをかけられた王子がひとりきり。
そのときから、誰もいなくなってしまった城の中で王子は悲しみに暮れる日々を送ります。
かろうじて呪いを逃れた動物たちが側にいましたが、それでも王子の悲しみは消えません。
呪いは、解くことができます。
……できるのです。
けれど、こんなにも醜く歪んでしまった姿をした自分など、いったい誰が愛してくれるのか、と。
王子は泣きました。
いつも人々を和ませた笑顔は消え、城の奥深く、たったひとりで泣いていました。
さらに時は過ぎていきました。
(呪いは永遠ではありません。けれど呪いには刻限が定められていて、これをもし過ぎれば、−呪い−が王子を殺すのです)
tasty dish and the Beast 00