とあるうららかな午後。
 季節は春真っ直中ということもあり、何とも過ごしやすい季節となっている。
 まあ、じっとしていればそれなりに暑さというか……篭もった熱を感じることもあるのだが、少しだけ開けている窓の隙間から運ばれてくる風が、そんな熱を丁度良い塩梅で奪っていくこともあって、過ごしやすさは格段に上がっていた。

 ユー……

 そんな室内にて。
 ゼブラの強面にもすっかり慣れた(出会った当初から尻込みひとつしなかったわけだが)子ペンギンは、あぐらを掻いている彼の足の間に収まって、気持ちよさそうに伸びをしながら、気の抜けるような鳴き声を上げていた。

「…………」

 そして子ペンギンの邪気のなさ過ぎる反応に興を削がれた形となっているゼブラも、文句も言わずに子ペンギンにその場所に居座ることを許しているのだった。
 彼ほどの巨躯ならば、子ペンギンほどの大きさなど苦もしないという理由もある。
 場所は占領しているが、どうやら居心地がいいのか必要以上にはしゃいだりしなかったのも、ゼブラに余計な怒りを買わない形となっていた。

 ……ユーン……

 たまに、鳴き声を上げるくらいはご愛敬、と言ったところであろう。
 いつもは、はしゃぎまわることが多い子ペンギンも、今はそんな気分ではなかったらしい。
 たとえるならば、静かに甘えたい、と言った感覚なのかもしれない。

 ゼブラも、調子に乗るな、の一言くらいは口にしそうなものだが、さすがに年齢に換算すれば小さな子どもくらいである子ペンギンを相手に凄む気も、あるいは何事かを言う気も失せている様子だ。

 ただただ、一人と一匹は、静かな時間を過ごしている。
 それはある意味で……もし、ゼブラという人物の人となりを知っている。あるいは、彼が第一級の危険生物に認定されているのだと知っている一般市民が見れば、阿鼻叫喚の光景なのかもしれないのだけれど。

「ゼブラさーん」

 そこで、静寂が不意に破られる。
 ゼブラたちがいるリビングから対面式になっているキッチンに篭もっていた小松が、ひょっこりとそこから顔を出して名前を呼びかける。
 キッチンに篭もる=何か食べるものを作っている、ということになる小松の声に、子ペンギンが「ユン?」とパチン、と真ん丸い小さな目を開けて体を起こして顔を上げる。
 同じく、名前を呼ばれたゼブラも何も言わずに視線だけを滑らせた。

 二対の視線を受けて、小松がエプロンの裾で濡れた手を拭きながら続きの言葉を告げる。

「そろそろおやつが出来ますからねー」

 ユン!

「おう」

 おやつ、という単語に機敏に反応した子ペンギンとほぼ被る形となってゼブラも短く了解の声で答えた。

「今回の三時のおやつは、ワッフルのバニラアイスクリーム添えです!」

 ユー!!

 既にアイスクリームが『冷たくて甘くて美味しいもの』だということをインプットされている子ペンギンが、小松の発言に大興奮の様子でパタパタと手を上下に振り回しながら甲高い鳴き声を上げる。
 それを下のほうから聞くことになるゼブラは、何とも渋い顔をしていたが「チョーシに乗ってる」だの何だのとは言わずにいた。
 …………言ったところで、全然まったくそのつもりもない無垢な子ども相手にそんなことを口にするほうがどうかしているわけなのだから。

 大興奮の子ペンギンだったが、それでもゼブラの膝の間から這い出して来たりはしなかった。

 それを見た小松が、しょうがないなぁ、と言いたげに眉を下げる。

「何がおかしい」

 めざとくそれを見つけたゼブラが口を開く。
 地を這うような低い声だったが、ペンギンを足の間においていては、その凄味も半減するというものだ。
 かくいう小松も、常なら竦み上がるところだが、目にする光景に困ったような顔をしたままで、答える。

「おかしいとかじゃないんです。
 ただ、随分とそこが気に入ってるんだなって思って」
「…………」
「すみません、相手してもらっちゃって」
「まったくだ」
「はい」

 息を吐き出すゼブラを目にしながら、小松は話を交わしながらも準備していたおやつを乗せた盆を手にとってキッチンから出てリビングへ向かったのだった。






 飼い主に似ていますから。