美形というのは、お得な生き物だということは以前にも書いたとおりだ。
 そして同じように、美形というのは真剣な表情で何かを語る、ただそれだけで絵になったりもする。

 それがどんなに世間一般からかけ離れたものであろうと、だ。

「実は、小松くんにプロポーズしたんだ」

 今もそうだ。
 憂いを込めた瞳を伏せ、これ以上ないくらいに真剣な表情でそう宣ってくれたココは、もしここに彼のファンがいれば顔を赤らめて感嘆の溜息をつくほどの様相だった。
 だが、残念ながら、今この場に彼のファンはいない。
 
 いるのは、そう。
 不幸にもそんな呟きを聞かされてしまった所謂、可哀想な面子はと言えば、

 ブフー!!!

「うぉ! 汚ねぇ!!」

 彼の知古とも言うべき、同じ美食屋四天王と謳われるサニーとトリコだけであった。
 今日はココの誕生日ということもあって、トリコとサニーが彼の自宅に顔を出したのである。
 以前は数年ほど会わないような状態であったものの、最近はこうして顔を合わせる機会も増えている。
 ただ、彼らの訪問は、ココへの誕生日プレゼントを小松から託されたという契機もあってのことだった。
 季節のイベント行事(今はちょうどハロウィンである)のせいで顔を出せないことを侘びながらのお願いごとに、友人である彼らが答えた形でもある。

 小松から託されたプレゼントをココに渡し(中身は本人しか知らなくていいことなので、トリコたちは知らない)、自分たちからもそれぞれ簡単な祝いの言葉とプレゼントを渡し終え、ティータイムに入っていた、その矢先のココの言葉であった。
 そしてそんなココの、何の伏線もなかった(本当に、何の予告もなく先のことをココは告白したのだ)ことによって、サニーは堪えきれずに口にしていた紅茶を吹き出した。少量だったのが幸いしたが、噎せてしまい、今もゴホゴホと激しく咳き込んでいる。

「サニー、お行儀が悪いよ」

 しかしその元凶とも言えるココは涼しい顔でそう忠告するだけだ。

「るせぇ! ってか、今回のこれは前のせいだしっ!!」

 ココのあまりと言えばあんまりな物言いに憤慨した様子でサニーが指を指して烈火の如く言い切る。
 そんなサニーの怒気にもココは不思議そうに首を傾げるだけだった。
 どうしてサニーが吹き出したのが自分のせいなのか本気でわかっていないのだろう。
 ちなみにそんなココの内情をトリコは一応気づいていた。気づいていたので胸の内で「めんどうなことになった」と呟くに留めることにする。

「そもそも、プロポーズってなんだ!」
「ん?」

 サニーのもっともな指摘にココはしばし視線を宙に泳がせる。
 数秒間ほど沈黙が続き……そして、ココが口を開く。

「だから、小松くんに結婚を申し込んだんだ」
「あああああああああああああああもぉぉぉおおおおおおおおお!!!」

 堂々巡りであった。
 サニーが美しさ云々のことも気にせずに自分の頭をバリバリと掻きむしっている。

「ーっかっら! オレの言いたいことは、んなことじゃねーんだよ!
 結婚って、松と前、いつからんなことに…!!」
「お付き合いはしてないね」
「はぁぁぁ!?」

 当たり前の疑問に、ココはあっさりと答えた。
 素っ頓狂な声を上げるサニーを横目に、トリコは「やっぱりか」と、ややうんざりとした顔で呟く。

「お前はわかってたんだね。そういう色事には疎いのに」
「色事云々に興味はねぇけど、お前はともかくとして小松がそういう関係になってた場合、隠せるほど器用なタチでもないしな」
「まあ、それもそうか」

 何らかのアクションは起こしていて然るべきだとトリコは言っている。
 それももっともなので、ココは納得したように頷いていた。

 両者の間で交わされるやりとりに我慢できなくなったのはサニーだった。
 憤慨した様子で(実際、こめかみ付近に青筋が二.三個ほど浮かんでいる)ブルブルと拳を震わせる。

「………前ら…! 今の問題はそっちじゃねぇだろ…! いや、そっちもじゅーぶんすぎるくらい問題だけどな…!!」
「中々言い出す機会がなくてね。どうせ結婚を前提にしたお付き合いを申し込むつもりだったから、いっそのことプロポーズしてほうが早いかと思って」
「一足飛びすぎんだろーが!」

 サニーのツッコミも、もっともであろう。
 というか、それが世間一般の反応に近い。
 「……そうかな?」とまたしても疑問符を浮かべているココと、「まあいいんじぇねぇの? こういうのは当人の問題だろうし」と細かいことを気にしないトリコのほうがおかしいのだ。
 ただ、この場の人数でいえば、サニーのほうが少人数になってしまう。

 元来、人の揉め事の多くは多数決によって極めて平和的に解決されてしまうことが多い。
 少数派の意見は、そうして切り捨てられていくのだ。

「オレはぜってぇ許さねぇし!」

 どこぞの父親のような台詞だった。

「許すもなにも、お前は小松の親でもなんでもないだろ」
「るせぇーし! 前も、もちっとパートナーのこととか気にしろ!」

 我関せずでバリバリとクッキーを口の中に放り込んでいたトリコの脳天に全力の手刀を打ち込みつつ(かなり痛い)、サニーがココに向き直る。
 ココは少しだけ困ったように笑っていた。

「トリコと同じ言い方になるけど、許すもなにも、小松くんから返事はまだ貰ってないんだ」
「…………は?」
「へ?」

 怒気によって赤く染まった顔で気の抜けた声を出すサニーと、痛む頭を撫でていたトリコのそれとが重なる。
 二人の声に、ココはもう一度改めて口を開く。

「だから、まだ小松くんからの答えは何にもないんだよ」
「………マジで?」

 拒絶もないのか、というサニーに、ココは軽く頷いてみせる。

「……困ったな」

 本当に困ったようにココはそう呟いて、少しだけ目を伏せた。
 彼の視線の先には、小松からの誕生日プレゼントが置かれていた。






返事はどっち?