「誕生日に、何か欲しいものってありますか?」
と、いう誕生日前にはある意味で決まり文句とも言える話を始めたのが、つい先日のことだ。
手ずから差し入れられたグルメ食材(美容にいいもの中心なのは、この際いつものことなので気にしないことにしている)を前にして、小松は目の前で「早く調理すれば良し」などと言っている彼にそう問いかける。
多分、サニーのことだから「じゃあなんか美容にいいもの作ればいいし」くらいのものだろうと予想していたのだ。
そもそもサニーはあまり人に自分の欲しいものを買って貰って喜ぶような気質ではない。
小松の予想に、サニーはその長い睫をパチパチと瞬きのために動かしながら、「…なんでもいーの?」と問い返した。
その反応に小松は『あれ、予想外の反応』だと思いつつも反射的に頷いて肯定する。
そんな小松にどこか何かを企んでいる子どものような…悪戯を思いついた悪童のように、にんまりとした微笑みを唇に乗せて、それでもサニーはどこか美しく微笑みを浮かべて「それなら」と口を開いた。
で。
「まーつ、飯出来たぞー」
ひょっこりとキッチンから顔を出し、エプロン姿にポニーテールのサニーがそう言ってソファにいた小松に声をかける。
「ありがとうございます、サニーさん」
「気にすんなし」
いつもなら、小松が食事の準備をしてその待ち時間のあいだ、サニーがソファや床の上に直に座りつつ待つというのが定番なのだが、今はその光景が逆転していた。
何となく慣れない感覚に小松は内心戸惑いながらも、サニーが準備を進めている食卓のところへと近づいていく。
「…あの」
「ん? どした?」
「やっぱりボクも何か…」
「それはダメ」
キッパリと小松の言葉を切り捨ててサニーは小松が座るための椅子を引いて待つ。
ここに座れ、という無言の意思表示だ。
断ることも出来ずに小松が少しばかり赤い顔でその誘いに乗る。
椅子に腰をかけながら顔を上げれば、サニーがテーブルの上に次々と(触覚つきで)出来上がった昼食を並べているところだった。
見事なまでに小松の好物ばかりだった。
「…えと…」
よく見れば、サニーが好きな食材が入っていたりするのだがそれにしたって、日頃の彼が作るものからすれば余程、美容や何やかやからは離れた食事だった。
「……今日って、サニーさんの誕生日ですよね?」
「そだし」
何当たり前のこと聞いてんだ? とサニーは首を傾げて小松に問い返す。
「………なんで、その、ボクの世話をすることが…誕生日プレゼントになるんですか?」
そうなのだ。
サニーが欲しいと言った誕生日プレゼントは、「丸一日、小松の世話をさせろ」というよくわからないものだったのだ。
世話、という単語から、小松はサニーが自分に何かするのではないか…例えば、エステだとかそういう、普段は小松が若干倦厭しているものなど…とも少しばかり思っていたのだ。
けれど、サニーはそんなことはしなかった。
朝目覚めてから今に至るまでずっと、それはそれは甲斐甲斐しく小松の世話を焼いていた。
これのどこか誕生日プレゼントに当たるのだろうかと、小松は思っている。
その申し訳なさが顔に出てしまい、への字眉になってしまった彼の顔を何も言わずサニーはしばらく見つめていた。
「…っつに」
それから、ゆっくりと口を開けて小松のほうへと手を伸ばす。
柔らかな頬に指先が触れて、あやすように撫ぜていく。
「オレがしたいって思ったから、こうしてんだし」
視線を持ち上げる小松の目元に、そのまま羽が触れるようなキスを落とす。
「から、これが誕生日プレゼントでいーんだよ」
途端、真っ赤になって照れる小松の表情に、機嫌を良くしたサニーが腕を伸ばして彼を腕の中に抱き留めた。
好きな相手の世話を自分でするって、何か良くない?