天気予報は、予報というのだから当たらない場合だってある。
 …それは道理だろう。

「でも、確か今朝は降水確率30%もなかったはずなんだけど…」

 呟きながら恨めしそうに小松が暗い雲を見上げる。
 闇の中でも尚暗く、重い雲に阻まれて夜空を遮られてしまった天からは大粒の雨が降り止むことなくザァザァと音を立てて落ちてきていた。

「…どうしようかな…近くのコンビニまで傘を買いに行くのが妥当…か、な…?」

 いつまでも止む気配のない空を尚、見上げながら疑問符を浮かべて呟いてみる。
 その案が妥当な線なのだろう。
 ただし、その最寄りの一番近くのコンビニに駆け込んだ距離から考えても全身がずぶ濡れになるのは目に見えているのだが。

「……仕方ない」

 それでも家に帰りつくまでの距離を長い間、雨に濡れたままであるほうが余程体に悪い。
 そう心の中で結論づけて、大きく深呼吸をひとつ、する。
 せめて少しでも濡れる時間を(範囲を、とは言えない)減らせるように走って向かおうと決めたところで、深呼吸の拍子に閉じてしまった瞼を開ける。

「や」

 目を開けた時、目の前に鉄平が立っていた。
 ……何の語弊もなく、本当に目を閉じたほんの数秒の間に、まるで幻か何かのようにその場にいるのである。
 気配などまるでなかった。
 そもそも、そこに始めから立っていたかのように『やって来た音』さえも小松には聞こえなかったのだ。
 あまりの事態に茫然自失になり、目を真ん丸くして返事が出来ない小松に鉄平はいつもの緩い表情で片手を上げている。

 ユン! と、その肩口から元気よく小松を呼ぶ声が聞こえて、そこでようやく彼は我に返った。

「え、ちょ、な、なな、なんで…!?」
「なんでとはご挨拶だ」

 驚愕の余波か、どもりながら小松に指を突きつけられても鉄平は表情をあまり変えない。
 当たり前のことをしているのだと言わんばかりに、くるりともう片方の手の中にある柄を回す。
 常なら…いや、腕に抱くほうが自然な動作にも関わらず、鉄平がウォールペンギンを自分の肩口に張り付かせているのにはワケがあったようだ。
 彼らの頭上には、大きな丸い傘がひとつ。

「せっかく迎えに来たのに」
「…あ…え……?」
「今朝、傘持っていってなかったし」

 雨の空を眺めてユンユンがキミのこと、心配してたんだよ、とまるで内緒話でもするかのように、こっそりと囁かされて小松は口をぽかん、と開けてしまう。
 視線のその先では、ご機嫌な様子のユンユンが小松に抱っこをせがんで特徴的な鳴き声を上げて待っている。

 ……なんだかおかしくなって、小松は思わずプッと吹き出してしまった。

「なに?」
「い、いえ、なんでもないです…」
「なんでもないなら笑わないでしょ」
「…えっとですねぇ…」

 なんて言えばいいんでしょう、と小松は笑いを含んだ調子のまま困ったように眉を寄せて鉄平を見上げる。

「…こういうの、嬉しいって言うんでしょうね」
「……そう?」
「はい。嬉しくて、なんだか笑っちゃったんです」
「そっか」
「はい」

 そっかそっか、と鉄平は何度も呟いて、自分の頬を指で掻く。
 その目が少しだけ柔らかな色合いを含むのを見つめてから、小松は鉄平の側まで歩み寄り、肩口にいるユンユンへと手を伸ばす。
 待ちかねた様子のユンユンが飛び降りるような勢いで小松の腕のなかにやって来るものだから、なぜか堪えきれなくなって益々笑い声をたててしまった。
 






の日のお迎えを、