トリコさん、と、名前を呼ぶことからその話は始まった。
「なにか、欲しいものはありませんか?」
「欲しいもの?」
オウム返しに言葉をかえすと、やわらかに笑い、そして少しだけ照れたように頬を染めて頷きながら小松が肯定する。
「なんでも…ってわけにはいきませんけど。さすがに、ボクの出来る範囲内でっていうことに」
すみません、と謝る言葉から、照れた表情の分にきっとこれが入り込んでいるんだろうなとトリコは何となく察した。
葉巻樹の紫煙を宙にくぐらせながら、ゆっくりと思案する。
欲しい物は何ですか、といきなり言われてもこれと言って欲しいものはない。
自分の喰いたいものは自分で獲ってくるのが当たり前だったし、トリコが今、手を出せないものが小松の手に入るわけがない。失礼な話だが、事実なのでその点は諦めてもらう他ないだろう。
物で欲しいものも見あたらない。
必要最低限のもので、あとは必要に迫られればいる、というものは既に幾つも手の内にある。
「……………」
さて、まいった、とトリコは思った。
欲しいものが見あたらない。
あるにはあるのだが、それは自分の手で手に入れるべきであって小松の…引いては、他人の手で貰うべきものでは、けしてない。
手に入れなければ意味がないとさえ思う。
それでも、小松は自分に欲しいものを何かくれるという。
「……手紙」
「?」
ぽつり、と思いついた瞬間に滑り落ちた言葉に、小松は目を丸くした。
瞬きを何度か繰り返し、ゆっくりとトリコを見る。
「手紙、ですか?」
「おう」
「…はぁ」
手紙かぁ、と呟く小松の表情は狐に摘まれたように、不思議そうな顔をしている。
欲しいものが手紙だと言ったトリコの言葉をバカにするわけでもなく、真剣にその『欲しい物』について思案を巡らせている様子の小松に、言った張本人であるトリコのほうが少しばかり呆れた。
「いいのか」
欲しいものが手紙なんだぞ、と存外に告げると、小松が思案の海から我に返って顔を上げる。
「だって、トリコさんはそれが欲しいんですよね」
「おう」
「なら、それがいいんですよ」
柔らかく笑う顔には、疑問の色もなくただ純粋に「自分が欲しいもの」をくれるのだという答えだけがあった。
それを見てトリコは少しだけ言葉を無くして、それから、小さく頷いた。
「……待ってる」
「はい」
待っててくださいね、と告げる小松の声と顔が、なんとなく嬉しくなって「たのしみだ」とトリコは笑った。
ラブ・レター
(内容については、トリコだけが受け取る権利があるのでここに表記するのを控えさせていただきます)