久しぶりに小松と会う約束をした。

 ここのところ詰めに詰めていた仕事がようやく終わったから、という前振りから話が始まった。
 その忙しさのことはわかっていたのでねぎらいの言葉をかけると電話先でもわかるくらいに嬉しそうに声が弾んでいたから、心身ともに疲労困憊だったのだろう。
 やっと解放されたという安心感からか、小松は常よりも明るい声で(けれど疲れが色濃く残る調子で)「ひさしぶりに、ユンユンに会いたいです」と言われてしまえば、断る謂われはない。
 ユンユンのほうも久しぶりに小松の声を聞いたせいもあって、電話口でもかなりのはしゃぎようだった。
 意味は伝わらないが、電話を切ったあとでもユンユンー、と声を上げてあたりを楽しそうに走り回っている。
 ひさしぶりに会いたいのもあるのだろう。
 ちょうどグルメタウンの近くにいく用事もあったので、スケジュールを合わせる。
 数日後の正午に待ち合わせを決めて電話を切ると、ふと、携帯をいじってカレンダーに目を落とした。

「……うわぁ…実際に会うの本当に久しぶりだな」

 最後に会った日はいつだったかと逆算するのが少し難しいくらいには直接顔を合わせていない。
 長いこと会っていないという実感はあまりない。(メールや、電話はよくしていたし(繁忙期をのぞく))
 だが、再確認すると実際に会うのは本当に久しぶりだった。
 足下でパタパタと走り回って、ちょうど自分の横を通りかかったユンユンをヒョイッと軽い調子で鉄平が抱き上げる。
 突然の体の浮遊感にユンユンは驚いたように、ユンっ!、と声を上げて小さな目をさらにまん丸にして、抱き上げた主でもある鉄平の顔を見上げる。
 ユーン? と首を傾げる様子が、「なにかよう?」と言っているようだった。

「今度、久しぶりに小松くんに会いに行くから」

 言った内容が伝わるかは甚だ怪しいものだったが、こまつ、というフレーズに敏感に反応したユンユンの瞳がキラキラと期待に輝き出す。
 途端、はしゃぐように腕の中で飛び跳ねる反応は、子どもといえどもウォールペンギンということもあり普通のそれよりもかなりのものだ。

「ていうか、つっつかれてるしね」

 よほど嬉しくて仕方ないのか、その特徴的なクチバシで何度も鉄平の体をつっついている。
 確かこれは信頼の表現だったかなぁと思ったところで、小松がよく、ユンユンにされていた光景を思い出した。

 はしゃぐ一人と一匹の様子。
 もう随分とまえのことのようで思い出すと少しだけ、霞がかったような、フィルムを通して見るような、そんな錯覚を思い浮かべる。
 けれど、小松の楽しそうな笑い声だけは今でもよく思い出せて…………

「…………あれ?」

 思い出しはした。
 だがそこで鉄平は自分の記憶に疑問符を浮かべる。
 記憶のなかにいる小松の姿が、何か……こう。
 ……かわ、いい?

「……長いこと会ってないから、美化効果でも加わったのかな……」

 もしもそれを誰かが詳細に聞いていたのだとしたら、「そんなバカな」と笑い飛ばすところだ。
 もしくは「美化効果ってなんだ」と問い正していたのかもしれない。
 しかし残念なことに、今ここには鉄平とユンユンしかいない。
 師匠の与作は、席を外していた。いつものことなので鉄平もユンユンも気にしていないが。
 ユン? とユンユンが首を傾げて鉄平の呟きに何かしらの問いかけをかける。
 意味の伴っていないものだ。きっと鉄平の何やら考え込んだ様子に、どうしたのだろうかと思っての鳴き声なのだろう。その声に鉄平はフッ、と我に返って自分の脳裏に思い浮かべて光景を払いのける。

「愛嬌のある顔立ちはしてるけど、」

 …それはいったいどういう意味なのか、と小松がこの場にいたのなら問うような言葉だった。
 しかしやはり残念なことに、小松はここにいないので鉄平はひとり、うんうんと頷いて自己完結をすませてしまう。

「記憶って美化されるものなんだな」

 師匠もそう言ってたし、と鉄平は呑気なものだった。
 ただユンユンだけが不思議そうに、小さく首を傾げたまま鉄平の行動に疑問符を浮かべていたのだった。





「で、実際のところどうだったんですか」
「実際に会ってみたら
記憶以上だとか思っちゃったみたいですよ。無意識だったらしく気づいた直後に、電柱で思い切り自分の頭ぶつけて自問自答してましたけど」