不意に目を覚ますと、すぐ側で眠っていたはずの小松とウォールペンギンの姿が消えていた。

 夜の星空がクラゲの向こう側でキラキラとした光を見せた静かな夜だ。
 まわりを見回すと、眠る前に見た面子が思い思いの場所で横になっている。
 しかし、そこに小松達の姿だけがない。
 ……星の位置から今の時間を算出してみても、真夜中であることは間違いなく、朝もまだ遠い。
 もう危険などはないのだから放っておいても良かったのだが、なんとなく気になって起き上がってみる。
 ここにいないとなると、と思いつつ視線を巡らせれば、闇の中にぽっかりと口を開けた階段が見えていた。

 □

「………こんなところでどうしたの?」

 背後から突然声を掛けられて、小松は体を思わずびくん、と竦ませてしまった。
 だがすぐにその声の主が誰なのかを理解して、苦笑するように表情を緩めて顔だけ振り向く。
 視線の先には、案の定、つい最近知り合ったばかりの再生屋の青年が気怠そうな表情で佇んでいた。

「鉄平さんこそ、どうしたんですか?」

 まだ真夜中ですよ、と小松が告げると、鉄平は少しだけ眉を顰めて近寄ってくる。
 足音が夜の静けさのなかでやけに鮮明に鼓膜を揺らした。

「それはこっちの台詞。目が覚めたら寝てるとこにいないから、どうしたんだろうなって思って」

 よ、っと、と声をかけながら鉄平は小松のすぐ横に腰を下ろした。
 座ってもいいかなんていう了承は取らなかったのだが、小松が無言のまま横にずれてくれたので、それを了承と受け取ることにしたらしい。
 小松は少しだけ困ったような顔で眉を下げた。

「ボクは…ちょっとだけ、星を見せてあげようと思って」
「うん……?」

 あげる、というのはつまり、小松が望んでここに来たわけではないことを示していた。
 そのことに首を傾げかけた鉄平だったが、そこで小松の膝の上で彼に抱きつくようにして眠りについている小さな生き物の存在を思い出す。
 思わず言葉を濁した鉄平の態度から、自分が何を言いたいのか伝わったのだということを感じ取った小松がゆっくりと、自分の膝の上で眠っているユンユンの頭を撫でる。
 ユンユンは、小さな寝息を立てて眠っていた。

「……思い出しちゃったみたいで、震えてたんです。だから、この星空が気分転換になればと思って」

 夜の闇は、忘れていたものを思い出させる。
 それは人間でなくても同じことだ。

 闇がこの、ちいさなちいさな生き物の心に連れてきたものを思い、鉄平は何も言わずに頷く。

「…よしよし、」

 いいこ、いいこ、と小松の手がユンユンの体を慰めるようにゆっくりと撫でていく。
 それを鉄平は何も言わずに、ただ黙って見つめている。

「……こわいことは、もうないから。
 こわいものは、もうお前の近くにはないから、ね…」

 囁く声だけが闇の中に染みていくようだった。

 ◇

「……すみません、鉄平さんにまで付き合わせちゃったみたいで」

 それからしばらく互いに互いのことを何も言わぬままに時だけが過ぎていった。
 見上げる夜の空には、もう月も星の光さえもない。
 遠くに落ちたそれらを見て、もう真夜中どころの時間帯ではないことを思い至った小松が小さく謝罪の言葉を口にする。

「別に気にすることないよ」
「でも……」
「オレが動かずにいたのはオレの意志であって、そのこの眠りを妨げないためじゃない。
 それに、元々ここにやって来たお邪魔虫は、オレなわけだしさ」

 滑るような口調でそう一気に告げると、小松はしばらくきょとん、と大きく目を丸くしていたが、やがて合心がいったのか表情を緩めて頷く。

「…ありがとうございます」
「だから、気にすることないって。小松くんは、ほんとに人の話を聞かないな」

 鉄平の手は小松の頭の上を何度か往復している。
 撫でられるその感触に小松は首を竦ませながらも嫌がる素振りは見せなかった。

「もう、ボク、子どもじゃないんですから」

 口ではそう言うものの、表情はどこかくすぐったそうで、照れくさそうに頬を薄く染めていた。
 うっすらと赤味を帯びた頬のまま、小松が顔を上げて鉄平を見る。

「………ほんとに、ありがとうございます」

 ここにいてくれて、と囁く声がどこまでもやさしい。
 その大きな瞳のなかにもう天空にはない星を見たような気がして、鉄平はしばし息を止めた。



 きらきら、
 きらきら、






に落ちるきっかけなんて、人それぞれ」
「時も場所も、あるいは年齢もなにもかもを飛び越えて、そのひとにやってくるもの」