恋を、したことがない。
生まれてきてこの方、恋、というものをしたことがない。
そう言うと、大抵の人間が「嘘ばっかり」と笑い飛ばし、一握りの人間が「……マジで?」と少しだけ表情を強ばらせる。
嘘なんてついてどうするのか。
口は災いの元だと、常日頃から言っているこの口が嘘をつくはずがないというのに。
(冗談くらいはつく。一応。冗談でないのに、「冗談ばかり」と言われてしまうのが玉に瑕なのだけれど)
……それには理由があるのだが、最たるものが師匠との修行の日々のせいだ。
そのことについては後悔など微塵もないのだけれど、その厳しい修行の日々に「恋」が入る隙間なんてなかった。
今は多少なりと余裕もある。
それでも、恋を知らずに青い少年時代を過ぎてしまった自分の性分というのは、中々変わりようが無くて。
恋をしなかった。
わざわざしようとも思えない。
可愛い女の子を見れば、「かわいいなぁ」くらいは思う。でも、それだけだ。
他には何も思い浮かばない。
けれど取り立ててそれで困ったこともないから放置を決め込んで来た。
恋をしなくても何も日常に不便なことはない。
日々は緩やかに、時に激しくその時の螺子を巻きながら勝手に過ぎていくばかりで。
だから、恋とはどんなものなのかわからない。
……わからない、と思っていたんだ。
「恋とは、熱病のようなものです。けれど、予防すればかからないわけではなく、かかりたいと思ってかかるわけではありません」
「……あしからず。」