(リビングルーム。
 テレビの前で集まっている一同(小松、トリコ、サニー、リン、鉄平が前のほう。後ろのソファでマッチが呆れ顔で眺めているが))

小松:……じゃあボクはこのキャラで行きますね。
トリコ:お。主人公枠のヤツかよ。面白味ねぇな。
小松:そういう台詞はボクに勝ってから言ってください。今日一日の戦績、ここで言いましょうか?
トリコ:(ぐぅっ)過去のことにこだわるのは男らしくないぞ!
サニー:てか、戦績つっても、前の全戦全敗だしな。
鉄平:確かに。小松くんはゲームも強いんだな。
小松:ボクなんてゲーマーの人に比べたら弱いですよ? 家に帰って、暇があったらする程度ですもん。
鉄平:まあ、やっているのとやっていないのとでは差は出るだろう…今まで、一本も取れないっていうのは。
サニー:仕方ねーよ。こいつ、コマンド入力とかチマチマしたもん苦手だしな。
小松:ノッキングよりよっぽど簡単なんですけど…
トリコ:ボタンがちっちぇんだよ!
鉄平:負け惜しみは良くない。
サニー:美しくねーな。
小松:…お二方、容赦ないですよね…
リン:トリコー、ガンバレだしー。でも、小松さんも頑張ってねー。
小松:はーい。
トリコ:余裕だな、小松。次こそは…!!

鉄平:どうする? 賭ける?
サニー:賭けになんねーよ。どうせ次も松の勝ちだろ。
リン:うー。トリコには悪いけど、勝てるビジョンが見えないし…
マッチ:…と、いうかお前ら、見てて楽しいか?
サニー:コンボが美しく決まるのは見てていい。
リン:ウチはトリコがいれば楽しいし! あ、でも小松さんの意外な一面が見られるのもいーかも。
鉄平:みんなと騒ぐのは楽しいよ?
マッチ:…聞いた俺がバカみたいだな…

(『ファイト!』
 テレビからの掛け声と同時に試合開始。
 しばらく、打撃音、ガード音、必殺技を声高に宣言するゲームキャラの音声が響く)

(リビングの歓声を聞きながら、ココが可笑しそうに表情を緩める。
 手元には菓子の数々)

ココ:……ふふ。
滝丸:………楽しそうですね。

(ココの隣には、滝丸。
 誰か三時のおやつ(提案者:トリコ)の準備をするかで、全員参加のジャンケン対決の後、決まったメンバー)

ココ:うん、楽しいよ。見てると愉快な光景だしね。
滝丸:はぁ……(ちらり)

(リビング。
 テレビ画面上、トリコの操っている両手剣使い(投擲攻撃も可能)を追い詰めていくナイフ使い)

鉄平:お。コンボ入った。
トリコ:うがぁぁぁぁ! なんだこりゃぁ!
小松:端に追い込んでからの! 連続ラッシュ!! です!!!
トリコ:ずりぃ!
小松:端に追い込むのは基本戦術です! 浮かせて!
サニー:あ。
小松:さらに浮かせて!!
リン:あー。
小松:ラストに! ゲージ消費の!! 必殺技でフィニッシュッ!!
マッチ:…割と容赦がないな。

(『KO!!』の掛け声と同時にゲーム終了。
 声を上げて後ろに転がるトリコと、ガッツポーズの小松。)

滝丸:……なんだか、変な光景ですけど。
ココ:キミにとっては?
滝丸:はい。ボクの知っているトリコさんは……なんていうか、何もかもが規格外の人ですから。
ココ:規格外、ね。

(ポットのお湯が沸く音。
 手早くそれを手に取り、準備していた空のカップにそれぞれ流し入れていく。ついでに、ティーポッドにも)

ココ:あんな風にテレビゲームで一喜一憂する姿は想像できない?
滝丸:少なくとも、小松さんに負けてああやって再戦を申し込むところなんて、誰だって想像できないと思いますよ。
ココ:まあ、確かにね。あいつもちょっと覚えればコンボのひとつやふたつすぐ習得するのに、力任せにやりたがるから。
滝丸:………そうではなくて。
ココ:うん?
滝丸:……………

(しばし、沈黙。
 何か聞きたそうにはしているが、それを言葉にできないような雰囲気。
 黙って蒸らしたお茶を、お湯で暖めておいたティーカップ(お湯は捨てた)の中へ、ココが注ぎ入れていく。
 琥珀色の液体)

ココ:………当たり前、か。
滝丸:……?
ココ:いや、ちょっとね。ボクらと、他の人間の間の『当たり前』って結構隔たりがあるんだなって思って、ね。
滝丸:あたり、まえ?
ココ:そう。『当たり前』。

(一杯ずつ、ゆっくりと)

ココ:ボクたちは『四天王』だ。この肩書きは今更どうにかして捨てることは出来ないし、人々の間から無くすことも難しいだろう。
   ボクも、トリコも、サニーも、『四天王』であり、始めて会うはずの人も大抵はボクたちのことを知ってたりする。こっちは全然知らない、っていうのが多いのにさ。
滝丸:それは、あなた方の今まで積み重ねてきた功績を見れば当然のことじゃないですか。
ココ:それが望まないことだとしても?
滝丸:…………っ。
ココ:まあ、過去のことに関してはもうそれがボクたちの人生で、もうとやかく言うつもりも、後ろ暗く思う気もさらさらないんだけど。
   ただ、ボクらは『当たり前』を知らない。
   誰かが当たり前だっていうことを、当然だっていうことを、持って来なかったし、誰も与えてくれなかった。

(饒舌に語るココの顔を見つめている滝丸。
 何か目をそらせずにいる。ココは滝丸のほうを見ておらず、自分の手元ばかりに目を落としている)

ココ:虚像。人々が無想するもの。そんなものでボクらは出来ていたりする。だから、誰も当たり前をくれないんだ。
   だって、ボクらは彼らとは違うものだって、思われてるんだから。
滝丸:そんなことは…!!
ココ:ない、とは言えないよね? さっきのキミの言葉、あれこそがそうなんだから、ね。
滝丸:あ……
ココ:…それがボクらの『当たり前』のひとつなんだよ。
滝丸:それじゃあ、言葉遊びじゃないですか…
ココ:そうかもね。でも、普通とか、当たり前とか、そういうものが根本的に違うんだ。ボクらは。

(でもこれは美食屋なら誰にでも言えるかもしれないね、とそう嘯いてココがちょっとだけ笑う)

ココ:でも、
滝丸:……?
ココ:でも、『彼』の前だとそういう隔たりが全部めんどくさくなっちゃうんだよね。

(困ったように、それでもどこか嬉しそうに笑っている)

滝丸:…彼、っていうのは?
ココ:トリコが今、「もう一回」コールをして困らせている相手。
滝丸:小松さんが?
ココ:そう。なんていうのかな……そこにある『当たり前』や、『普通』、そういうのを彼は一度全部とっぱらっちゃうんだよ。
滝丸:そう、なんですか?
ココ:うん。それも、無自覚にぽいっと。
滝丸:なんでそんなゴミでも捨てるみたいな。
ココ:だって、ほんとにゴミでも捨てるみたいに、えぃって取っ払っちゃうんだよ。
   あのゲーム機だって、ボクらは興味がなかったんだけど…いいや、なかったはず、なんだけど、今じゃあの状態だし。

(人数分入ったカップを並べ終え、次におやつを皿の上へ盛っていく)

ココ:ボクらを『四天王』じゃなくて、年齢の近い、もしくは同年代の友人で扱ってくれるんだよ。
滝丸:……『四天王』と『料理人』ですよね?
ココ:ミーハーなところはあるけどね。でも、懐まで入れてくれると、小松くんは、素で接してくれる。
   こうやって休日に集まって、リビングで集まってゲーム大会を開いたりする程度にはね。
滝丸:…やっぱり、おかしいです。

(表情の硬い滝丸。視線は小松のほうを見ている)

ココ:そう? これはこれで結構楽しいよ?
滝丸:…その感覚が既におかしいです。

ココ:毒されたのかもね。毒人間が、ただのひとの持つ見えない毒に侵されるなんて、笑い話にもならないけど。

(クスクスと笑いながら、準備が終わったのか軽くキッチンの片付けを始めるココ)

ココ:さて、じゃあ、あっちもキリがいいところだから持っていこうか。
滝丸:……はい。
ココ:不満そうって顔だね。まあ、ボクの言葉だけじゃなくて、キミ自身が彼に聞くのが一番近道だと思うよ。
滝丸:ボクが、ですか?
ココ:そう、キミが。

(そうしたら、ボクの言っていることがわかるかもしれないよ?
 存外にそう伝えるココを一瞥したあと、人数分の紅茶を乗せた盆を持ってリビングへと向かう滝丸)

滝丸:おまたせしました。
サニー:お。やっとか。
ココ:人数分の準備だけならもっと早いけど、そこには食いしん坊ちゃんがいるからね…トリコ、お前の分は今から別に持っていくから手を出すなよ!
トリコ:んー。
リン:話半分だし……

(まだゲームのほうに意識が向いているトリコ。
 サニーとリン、そしてマッチがリビングの机を簡単に片付けていく。
 盆を机の上に置きながら、ちらりと視線を上げる滝丸。視線の先には、先ほどの格闘ゲームについて鉄平に何やら解説(?)をしている小松がいる)

滝丸:………(話してみたら、か)

(でも、何を?)

小松:…で、さっきみたいに浮かされそうになったらキャンセル技を入れたりしていくんですよ。
鉄平:ふーん……めんどくさいな!
小松:こういうときまでめんどくさがりな発言を出さないでください!!

(……ツッコんでるし。
 そういえば、あの大陸でもトリコ相手に随分と的確に、そしてうるさいツッコミをしていたな、と何となく思い出す)

小松:もー………………(ちら、と)……?
滝丸:(しまった、見過ぎた…!)
小松:(ぽん)あ、滝丸さん、ご苦労様です。
滝丸:(……気付かないふりをしてくれた…?)…あ、いえ、ジャンケンで負けたのは自分の責任ですから。
小松:でも、ありがとうございます。

(にっこりと笑顔の小松。なんだかその笑顔に当てられるような気分で、滝丸も困ったみたいに眉を下げて苦笑を浮かべてこたえる)

小松:あ。そうだ。滝丸さん、次、別のゲームをやろうって話になってるんですけど、一緒にしませんか?
滝丸:ボクもですか?
小松:はい!
滝丸:いえ、ボクはそういうのは……
小松:………だめ、ですか?

(しゅん、とうなだれる。先ほどの笑顔が嘘のように萎れていくのを前にして、何とも言えない罪悪感が。
 ついでに視線が痛い。おもに一部からの強烈なくらいの視線が痛い。誰のとは言わないが…確認したくもないので)

滝丸:…少し、なら。
小松:ほんとですか!
滝丸:(うわぁ、文字通り輝くような笑顔って始めて見た)…はい。でも、ボクはそういうのしたことがないですから、やり方とかわからないですよ?
小松:あ、じゃあボクとチームを組みませんか?
滝丸:小松さんと?
小松:はい。これからするのは、テーブルゲームのやつですから。
滝丸:………じゃあ、お願いします。
小松:はい!

(ニコニコと笑っている小松を見ていると、なんとなく自分が気にしているようなことが小さいもののような気がする。
 いつのまにか釣られるように滝丸自身も笑っている)

マッチ:……すっかり二人の世界だな。
リン:さすが小松さんだし…!
鉄平:何がさすがなんだ?
トリコ:気にしないほうがいいぜ。気にしたら最後だしな。
サニー:あーあ、またひとり追加ってか。

(そんな二人を見ている一同。
 ココがそれを遠巻きに見つめながら、おかしそうに表情を崩していた)

(で)

小松:……ここで妨害カード発動!!
リン:ああん、小松さんの鬼ぃぃぃ!!
滝丸:鬼と言われたので。
小松:ご期待に応えてみました!
サニー:げぇ! 続けざまに滝が別のをコンボ仕立てやがった…!!
トリコ:こりゃあ今回も小松と滝丸のコンビの一人勝ちっぽいな。
鉄平:自分たち以外の全メンバーを敵に回して、よくここまで立ち回れる。
マッチ:意外な才能ってところか。
ココ:蚊帳の外っぽいけど、余波がこっちまで来てるよ。





「トリコ宅で色んな人たちが集まってゲームをしていたり、後ろのほうで難しい話をしていたりするだけのお話」