―夢を見た。
 それが夢なのだとわかるくらい、ひどく曖昧で、それでいて鮮烈な夢だった。

 目を開けるとそこには何もなくて、ただ真っ白な景色が続いているだけ。
 見渡す限りの白。
 暖かくもなく、寒くもなく、ただただその景色だけが視界のなかに入ってきて、目に痛いと思うほどだった。
 あまりの白さに、その景色の中で違う色を持つ自分のほうが異質な感じになったほどだ。
 確かめるように自分の手に視線を落とし、何度か開いたり閉じたりしてから、また顔を上げる。
 すると、視界のその先でさっきまでそこにはなかった色があることに気がついた。
 まるで幽鬼のように湧いて出たようなものだったのだけど、夢の中の自分はそのことに気づきもせずに、たん、っと足を踏み出してその場から走り出す。
 何度か地面を蹴ってその色の…自分のよく知っている人の側まで走り寄っていく。
 その背中へと名前を呼べば、振り返ってこちらを見る顔が優しい。
 すぐ側まで行って立ち止まるのと、彼が微笑みを浮かべて体全体で振り返ってくれるのはほぼ同時だった。
 顔を上げれば、ふんわりと柔らかく笑う顔。
 すごく綺麗で、思わず誘われるみたいにつられて笑ってしまう。
 大きな手がゆっくりと伸ばされて、頬に触れてくる。
 長くしなやかで、それでいてどこか節くれ立った指先が頬を撫でる感触がくすぐったくて、身を捩って目を細める。

 そんなに優しく触らなくてもいいのに。
 まるで宝物みたいにやわらかく触れなくても平気なのに、と思いながら顔を上げる。
 
 …そこで、これが夢なんだということに唐突に気がついた。

 だって、あの人はこんなふうに触れたりしない。
 手を伸ばすたびに一瞬だけ躊躇しているのを知っている。
 知らないふりをしているのだけれど、それに気がつかないほど、バカではないのだから。
 ……鈍いと自覚している自分が気付くくらいに、何度も繰り返されればイヤでも気付くというものだ。

 だからこれは夢なんだ。
 やさしい、やさしい、目が覚めたらそこで消えてしまう、夢でしかないんだ。

 夢のなかの彼は相変わらず綺麗に笑っているのに、その顔ですら自分の夢でしかないことが悲しくて仕方ない。
 


 そのことがあんまりにも悲しくて、ほろほろと涙がこぼれ落ちた。
 それでも彼は気付かずにただひたすらに笑っているだけで、それがさらにこれが夢なんだと、無情なものを突きつけられた気分になって、涙が溢れた。

 だってこんなの、あんまりじゃないか!





真昼にる夢。