隣を歩く小松に、ちらりと視線を流す。
 オレとの身長差がいっそ親子と言ってもいいような小さな体。
 特に変わった様子もなく、いつものような柔和な表情を浮かべて歩いている。
 
 …勢いだった。
 そう、煩悶とする、その反動でついうっかり。
 悩みの要因であり、種であり、張本人でもあった小松自身に「遊びに出かけないか」と誘いを掛けたのは、あの時の自分自身に、お前は馬鹿か! と罵倒したい気分にもなるというもの。

 何も考えていなかったとも言っていい。
 気分転換も兼ねて…の、はずが、いざ誘いをかけたのが先ほどまで頭の内を占めていた小松で。
 しかも自分の失態に気付いたのは、携帯のコール音が止み、あいつが「はい?」と出た直後。
 自分自身の阿呆さ加減に、この横っ面に拳をぶち込みたい気分だったが、とにかく勢いのまま誘いを掛けたのだ。
 誘いをかけて思った。
 小松は、断るだろうと。
 ハントではなく、買い出しでもなく、ただの遊びの誘い。
 二人に共通する項目であるはずの美食をすっ飛ばしたこの誘いに、あの告白をした小松が乗るわけがない、と心のどこかで思っていたのだ。

 だがしかし、意外性のありすぎる小松という人間は、あっさりとオレの誘いに了承した。
 あまつ、「じゃあどこに行きましょうか? トリコさんと遊びに出かけるなんて、滅多にないですからねー」などとのんびりと返しやがった次第だ。
 小松とオレは同年代。
 けれど、生き方も、住む世界もまるで違っていたオレたちに共通するものなど見つけるほうが少ない。
 特に日常という観点でいえば、尚更だった。
 誘いをかけたはいいものの、どこに行けばいいのかわからなくなり、黙り込んだオレに気付いたのか電話先の小松が笑い声をこぼす。
 (ただ、それは嫌味な笑い方ではない。しょうがないなぁ、と甘やかすような、そんな笑い方だ)

「このモールは最近出来たばっかりなんですよ」
「おう」
「前からテレビで大々的に宣伝してて…ちょっと興味があったんです」
「…そうか」
「はい!」

 短いオレの切り返しにも、小松は屈託なく笑いながら離しを進めていく。
 どこでもいいなら、ボク、ちょっと行ってみたいところがあるんです…と、切り出されて連れて来られたのは、最近、出来たばかりだという大型のショッピングモールだった。
 中にあるショップを覗くだけで半日は確実に潰されそうな巨大なそこには、珍しい食材や調理用品、その他にも雑多なものが詰め込まれているらしい。

「さすがに人が多いですねー…今日って平日なのに」
「休日だともっと多いんじゃねぇか?」
「だと思います。ここ、映画館も併設してますから。あとはゲームセンターとか……」

 そう言いながら施設の内容を思い出しているのか、空中で指を回しながら一つずつ口に出している小松の顔に、オレは目を落とす。
 視線を向けていることに気がついたのか、ぱちん、と大きく瞬きをした黒い瞳がオレを見つめて、それから表情を崩した。
 いつもの顔だ。
 いつもの、小松のしまりのない、人なつっこい顔。

「映画は今、あんまり面白そうなのやってないみたいです。もう少したてば、新作が入ってくるみたいなんですけど…」
「映画は腹膨れねぇし、長いこと食えないから却下」
「あははは、トリコさんらしいですねー」

 笑い声をたてながら小松が少しだけ先を歩く。 
 その時、ふっと、オレの歩く速度に合わせて小松が歩いているんだということに気がついた。
 オレとあいつの身長差は見てわかる通りで、そうともなれば歩幅も違う。
 ほとんど早足になりながらも不平も言わずに笑う小松に、オレは歩く速度を落とした。
 そうなると歩く速度を上げていた小松がさらにオレから距離が離れてしまう。そこで、小松はオレの行動に気付いたらしく、少しだけ驚いたように目を丸くしていた。
 こぼれ落ちそうな、大きな丸い瞳。

 それが、やがてふにゃりと、崩れた。

「ありがとうございます、トリコさん」

 何がとも言わずにそう言って小松が、とことことオレの隣にやって来る。
 
 いつも、と変わらない。
 そう、変わらないはずなんだ。

 歩くスペースを合わせた小松がさらに話しかけてくる。
 それに適当に相づちを打ちながら、ぼんやりと、思う。

 ――――『いつも』、こいつは、こんな顔をしていたのか?





デート −「きっかけは、行動であったり、表情であったり、疑問であったりするのです」−