「……美しー」

 うっとりと。
 本当に心の底から陶酔しながら、けれど熱烈な感情を込めてサニーが感慨深げに呟きをもらす。
 その呟きは、もし第三者がこの場にいて耳にしたのであれば、あまりの陶酔ぶりに耳を疑うようなものであった。
 …そう、それはまるで、恋をしているかのような、声。

「良い。やっぱり、前は美しー…」

 しみじみとそう囁かれてしまえば、大抵の女性は落ちてしまっているかもしれない。
 それほどに、その囁きは強烈だった。

 けれど、

「…あのぅ…」

 サニーの熱烈な呟きに困惑した様子で、その相手は怖々と声をかける。
 その声を耳にしたサニーが、視線だけを動かして彼のほうを見て、何を言いたいのかと問いかけてた。

「……見られてると、恥ずかしいです」
「何言ってる。こんな美しーもん、見ないなんて損だ」
「真顔でそんなこと言わないでください」
「ほんとのこと言って何が悪い」
「ボクが恥ずかしいんですってば!」

 堂々巡りのやりとりに最後はいつものツッコミのように大きな声で叫んでしまう。
 するとサニーは気分を削がれたのか、不服そうな面持ちで眉間に皺を寄せる。
 その顔でさえも絵になるので、美形というのはお得な生き物であろう。

「松」
「なんです?」
「…恥ずかしがるな。前の調理する姿は、美しい」
「だから真顔で恥ずかしいこと言わないでくださいってば!」

 真剣な顔で言われてしまえば、その言葉の威力は尚更だったようで、小松は真っ赤な顔で付き合っていられないとばかりにサニーに背を向ける。
 そうなると、サニーから小松の手元を見ることが出来なくなってしまう。
 すなわり、彼は美しいと称賛する、小松の調理姿のすべてがである。

「隠すな!」
「隠したくもなりますよ! 黙ってるならまだしも、サニーさんはボクが恥ずかしくはるようなことばかり言うから!」

 小松の言葉にサニーはグッと言葉を呑み込む。
 美しいものは称賛すべきである、というのがサニーの持論である。
 黙っているなど論外だ。称賛は、口に出してこそ意味があるというもの。
 だからこのままでは、小松の調理する姿を見ることが出来ない。
 ちなみに、触覚を使う云々というのは、最初から論外だ。
 
「………松ー」
「なんですか」
「黙ってたら、見ても良?」
「………」
「な、良?」

 サニーにしてみたら余程の譲歩した案であろう。
 それを小松もわかっているので、しばらく困ったように逡巡していたのだが、溜息をつきながら「しょうがないですね」と呟いた。

「……黙っててくださいよ?」
「もちろん。約束は守る」
「……もう」

 キッチンに椅子を持ち込み、それに腰を下ろして本格的に自分の調理姿を見つめることにしたサニーに小松はさらに溜息をつく。

「こんなの、見てても楽しくないのに」

 ぽつりと聞こえない程度の呟きだったのだが、それをサニーは正しく聞き取ったようで片眉を上げながら口を開く。

「美しーもんは見ているだけで心を癒すんだよ」

 そう言って綺麗な顔で笑んだサニーを、小松は極力見ないようにして(目にすると、ダメージが大きいので。おもに心のほうの)調理を再開させる。
 サニーは約束通り、それを満足そうな顔で眺めていた。






うつくしいあなた