ココの自宅のリビングに置いているテーブルは大きい。
一人暮らしをしている、という観点からしてみればそうなのかもしれないが、そのサイズは大人数が一度に座れるほどのもの。
まあ、たまにしかやってこないが格別大食らいのトリコ(フグ鯨の一件以前は三年ほど会っていなかった)や、好みにうるさいサニー、他にも数少ない知人のこともあって…あとは、自身で作る手製の食材を並べる時にも使用していたりする。これは中々便利だ…のことだ。
大きいからと言って不便に感じたことは、ココ自身にはない。
彼自身が規格外に体格が良いせいもある。
優男、と揶揄されてはいるが、それでも世間一般の男性に比べたら彼の体格は、どこかの格闘家かと言わんばかりのものである。
身長もあった。
なので、テーブルの大きさも彼には関係がない。
そう、ココ自身、だけの話であれば。
統一された間隔で切られたバケット。
木イチゴのジャムに、琥珀色の蜂蜜と、柔らかな色合いのバター。
旬の食材を取り入れたサラダ。
そのサラダに自分好みに味を楽しむための数種のドレッシング。
良い色に焼き上がったハムと、ソーセージ。
半熟のスクランブルエッグ。
暖かな湯気と匂いをたてるコンソメスープ。
丁度良い大きさに切ってある、林檎とオレンジ。
そして、この前手に入った新しい茶葉で入れた紅茶。
テーブルの上に所狭しと並べられた朝食の数々は、ほとんどがココと向かい合わせに座っている小さな料理人の手によるものだ。
ココも少しは手伝ったものの、やはり本職の彼の手際にかなうべくもない。
それが自身の愛する恋人の手によるものだという事実が、ココの胸に暖かな幸福を連れてくる。
「……どうかしましたか?」
小松がココの顔を見て不思議そうに目を瞬かせる。
どうやら知らずに笑ってしまっていたらしい。
無意識で緩む頬を何とか鎮めながら、涼しい顔で「なんでもないよ」と答えた。
「今日も美味しいと思っただけだよ」
「褒めてもこれ以上は何も出ませんよ?」
「ううん、本当に美味しい」
手放しで褒めるココの言葉に、小松は恥ずかしそうに首を窄めて椅子に座り直す。
いつまでたっても自分の称賛の言葉に慣れずにはにかむ小松の様子に、ますますココの笑みが深くなる。
かわいいなぁ、と小松が聞けばそれこそ真っ赤になって否定するであろう言葉を思い浮かべながら、ココは手にしていたバケットに齧り付く。
ざく、と音をたてて口の中に香ばしいバケットの味が広がる。
……ちなみに、このバケットも小松が昨晩作っておいたものを今朝、オーブンで焼き目をつけたものだ。
自分の恋人ながら、その手際の良さには頭が上がらない。
「……あ、あの、ココさん…」
口の中に広がる味を堪能していたココに、小松が小声で話しかける。
ココが黙ったまま視線だけで先を促すと、頬を紅潮させ、視線を逸らしながら小松は呟いた。
「…そこのバター、取ってもらえますか…?」
ボクだとそこまで手が届かなくて、と口の中で、モゴモゴと言いにくそうに告げる小松が可愛らしくて、ココは双眸を崩しながら快くその申し出を受け入れた。
「お安いご用だよ。ああ、スープのおかわりもいるかい?」
「いえ! あの、そこまでしてくれなくても…」
「小松くんには朝ご飯を作ってもらったからね。このくらいはお返ししないと」
「ココさんだって手伝ってくれたじゃないですか……」
「あんなのじゃ、まだまだだよ」
だからもっといっぱい、ボクに甘えてね?
そんなジャムよりも甘い台詞を告げると、ボン!と音をたてて小松の顔が真っ赤に染まる。
小松の反応が予想通りで、ココはおかしそうに吹き出して笑った。
ちなみに。
そうやって小松の小さなお願いを引き出せるのでテーブルを丁度良いものに変えないという事実も、ある。
ボクとキミの丁度良い距離。