赤。
 青。
 ピンク。
 黄。
 緑。
 およそ自然に出したものじゃないだろう、と見た途端にわかるようなカラフルな色合いをしたものがお菓子には多い。
 これを食べる子供達はこの色合いで食欲がそそられるのかが疑問に残るところなのだけど、自分が子供の頃はどうだったのかと思い返してみれば、合成着色料云々のことを思い浮かべるよりも先に、それが何味なのかが一目瞭然でわかるお菓子を好んで口にしていたように思う。
 
 なんとなくそんなことを思い出して苦笑しつつ、掌にのった小さな色のもとを口に含む。
 だいたい、〜味とは書かれているものの、実際の味とはほとんど違うものに出来上がるのが菓子の常と言うものだ。
 〜風味、などよくある例だろう。
 真っ正面から何の味がする! 100%変わらない!! などと豪語しているわけではないので、そこは暗黙の了解と言ったところだ。
 舌の上で人工的に作られた甘さがじんわりと広がっていく。
 よくよく考えてみると、こうやって舌を妨害するようなお菓子を口にしないことが多くなっている。
 懐かしさに口元が緩む。

 ア゛ア゛?

 そこで横合いから聞き慣れた嗄れた特徴的な鳴き声が聞こえて、小松は振り返った。
 そこには感情の読み取れない漆黒の瞳の持ち主である巨大な鳥の顔がある。
 しかし目の前にあるその嘴にも驚いた様子もなく、小松は微かに首を傾げた。
 それに合わせて巨鳥も真ん丸い瞳をそのままにして、首を同じ方向に傾ける。

 ぷっ、と思わず小松は吹き出してしまう。

「どうしたの、小松くん?」

 そこへちょうど戻ってきたココが先ほどの小松の吹き出す音が聞こえたのか、声をかけながら顔を出す。
 笑いを堪えながら小松は振り返った。

「いえ、キッスの仕草を見てたらつい……」

 ア゛ー? と、小松の言葉が理解できたらしいキッスがさらに不思議そうに鳴き声を上げる。
 その音の源でもあるキッスの大きな嘴を宥めるようにして掌で撫でた。
 どうやらキッスの言いたいことがわかるらしい(長年の家族としての付き合い)ココがキッスのその鳴き声だけで合点がいったのか、不思議そうに眼を瞬かせる。

「…何を食べてたのって聞いてるみたいだけど?」
「やっぱりココさんにはわかるんですね」

 いいなぁ、ボクには全然わかりませんから、と言いながらも小松は先ほどまで口にしていた菓子の袋をココのほうへと差し出した。

「それは……?」
「ラムネです。こういうのって今も昔も形も色も変わりませんよね。懐かしくてつい買っちゃいました」

 そう言いながら小松が自分の掌の上に袋に入っていたラムネを取り出して乗せてみせる。
 そこにあるおよそ健康的とは言えない色合いに、ココが少しだけ複雑そうに眉を顰め、キッスは物珍しげに嘴を近づけてきた。さすがに反応の差があるのはしょうがないことだろう。

「なんていうか…毒々しい色合いだよね」
「でもこうやって色で味をわかりやすくしてもらったほうが子供たちにはわかりやすいんですよ」
「こども?」
「こういうのを買うのの大半は、こどもですから」

 クスクスと笑いながら小松がラムネのひとつを口に含む。
 一応、イチゴ味なのだがやはり本物の味にはほど遠い。
 それでも昔は、どの味が好きかで意見がわかれていたことなどを小松は懐かしそうに思い出していた。

 その笑みに何を感じたとったのかはわからないが、ココが、そう、とだけ言って小松の隣へと腰掛ける。
 キッスはさらに嘴を近づけて小松の掌の上にあった小さなラムネの粒をつついている。
 味見してみたいだろうということだけは伝わってきたのだが(ココはこういうものをキッスに食べさせるとは思えないし)、小松はキッスに制止の声をかけながら遠ざけようとする。
 するとさらにキッスが近寄ってきた。

「駄目だよ、キッス」

 アー。

 制止はするもののキッスはそれに堪える様子もない。
 さすがにこれをエンペラークロウに食べさせて良いのかもわからない小松が片付けてしまおうとするのだが、その前にココが口を開いた。

「大丈夫だよ、小松くん。少しくらいなら、だけどね」
「え、でも、いいんですか、ココさん。これ、合成着色料とか入ってるんですけど…」
「さすがにキッスのお腹を満たせるくらいならボクも止めるけど、味見程度なら、ね?」

 それにこうなると止めて聞かないよ、と笑いながら言われてしまい、小松もそれなら、と幾つかをキッスの開けて待っていた嘴の中に入れてみる。

 しばらく味を確かめているのであろうキッスの動向を窺っていたのだが、キッスは相変わらず嗄れた声で鳴いただけだった。

「……あの、キッスはなんて?」

 こうなると反応がわからないのでココに聞いてみれば、彼は唇に楽しげな笑みを浮かべていた。

「『はじめて食べたからよくわからない』だって」
「ですよね」

 その答えが何ともおかしく、けれど納得もしてしまって小松は堪えきれずに勢いよく吹き出したのだった。






体験(味見的な意味で)。