仕事の関係上もあるのだけど、あまり自宅に人を招いたことがない。
 立場や、あとは職種のせいもある。
 普通、友人を気軽に呼べるような時間帯に仕事が終わることが自体が少なかった上に、休日は仕事のせいで溜まっていた洗濯物や家の掃除などに当てられてしまうことが多いかった。
 修業時代だと、腕の向上のために練習時間にあてるなんてこともザラだった。

 今でこそ料理長という責任はあるが、まだ自由に出来る…この場合は、時間の使い方を覚えたとも言えるだろうか……ようになった今では、職場で気軽に自宅に呼べるような近しい人は少ない。
 かつての知り合いも今では別の場所で働いていて、それなりに責任のある地位についていたり、自分で自分の店を経営していたりするので誘い誘われるのも遠慮してしまうのだ。

 そういうゴタゴタもあって、あまり自宅に人を招いたことがないのだ。

 と、いうわけで。

「……すみません。お客様用の食器ってあんまりなくて」

 そう言いながら、緑茶の入った湯飲みをココの前に置く。
 ついでにお茶請け用の菓子も皿に幾つか盛ってきたのだが、ココは自分の前に出された湯飲みに少しだけ目を丸くしていた。

「……いや、いきなり上がり込んでしまったボクに非があったし気にしなくてもいいよ…?」

 言葉ではそう言ってはいるものの、ココの当惑したような表情は晴れない。
 それを見て小松は困ったように乾いた笑いを浮かべる。

「家にあるのってだいたい自分用のばかりで……さすがにそれを、お客さんのココさんに出すわけにもいかないですし…」

 視線を落とすと、机の上に置かれた湯飲み。
 それは、とてもファンシーな、女性に人気の可愛らしいキャラクターの顔を模した形をしていた。
 湯飲みは湯飲みなのだが、顔の部分をプリントされているのを想像していただければいいかもしれない。

 少なくとも、ココには似合いそうもなかった。
 あまりのギャップに、新品に近い状態のものがそれしかなかったとは言え、小松は視線を逸らしてしまう。

「でも、珍しいね。小松くんがこういうものを好んで買うのは…」
「貰い物なんです!
 店の子がそのキャラのファンなんですけど、少し前にワンコインくじをやっていたらしくって…欲しい景品を全部集めるために、だいぶ種類がだぶっていたのを店のみんなに配っていて、ボクはそれを…」
「ふぅん…」

 小松の説明に納得したようにココはそう言って湯飲みを手に取る。
 …その対比が、失礼な話だが似合っていなかった。
 あまりの対比にココの昔なじみの彼らがいたのであれば、腹を抱えて爆笑するレベルである。
 
 爆笑したらしたで、きっちりココの怒りを買って報復を受けるので、今はいないのでちょうど良いのかもしれない。

「まあ、いいんじゃないかな」
「……?」
「誰も使わないんだったら、ボクが使うのも丁度いいって話だよ」

 そう言ってココは湯飲みに口をつける。
 ふんわりとした緑茶の香りが鼻腔をくすぐっていた。

 その仕草を小松は追いかけるようにして視線で追う。
 やがて湯飲みから口を離したココが優雅な動作で、ことり、と首を傾げて小松のほうを見た。

「どうかした?」
「あ、いえ……あの、ココさんは…それが、ココさん用になってもいいってことですか…?」
「うん。わかりやすいだろうしね」

 くす、と軽く笑ってココがまた緑茶に口をつける。
 



 ちなみに、
 今の会話で、これがボク専用になるってことは、それはこれからもボクが来てもいいってことだよね?
 と、いうようなことをココが思っていたということを、小松はまだ知らない。