「もしも魔法が使えたら、ですか?」
「そ」

 サニーの『たとえ話』に小松は首を傾げる。

「なみに、魔法は一回こっきり。別に制限とかはないけど『回数』を増やせとか、つくしないのは論外な」

 つまり、どこかのランプの魔神のように『三回願いを叶えてやる。ただし、人の心を操るもの、生死に関わるもの、回数を増やすのは駄目だ』というものではないらしい(最後のは、まあ仕方ないとして)。
 美しないから駄目というところがサニーさんらしいなぁ、と思いながら小松はほんのりと目を細める。

「んー……そうですねぇ…」

 突然そんなことを言われても返答に少し考え込んでしまうのだが、こういう言葉遊びは常だ。
 サニーも考える小松の答えを楽しげな笑みを唇に浮かべて待っている。
 
 そうすると、聞こえるのは部屋の中でチッチッと時を刻む時計の針の音だけ。
 
 寒さのために締め切ってしまった窓のほうからは外の音も聞こえてこない。
 まるで、ここだけ切り取られてしまったかのような、錯覚が過ぎる。

「…………………特に、ないです」
「ん?」
「だから、ないです」
「何にも?」
「はい、何にも」

 しばらく思い悩んだ末の答えに、サニーが少しだけ首を傾ける。
 その動作で小松の目の前でサラサラと、まるで光の粒子のように彼の髪が揺れているのが見えた。

「無欲なのな」

 しばらくして、フワッと笑みを浮かべたサニーが小松の小さな身体を抱きしめながらそう囁く。
 柔らかな二本の腕に抱き込まれ、けれど慌てる様子もなく小松は苦笑を浮かべた。

「そんなんじゃないんですよ」
「そか?」
「はい。魔法で叶えたい願いがないくらいなので…」
「最高の料理人になるってのは?」
「あれはボクの『夢』であって、魔法でホイホイ叶えちゃいけないものですから」
「へぇ……」

 夢は自分の力で叶えるべきもの。
 魔法で叶えていい代物ではない。
 そんなもので叶ってしまう『夢』など、手に入れたところで何の価値もないのだから。

 そこまで考えているのかはわからないが、小松の少ない言葉裏をそう解釈したサニーは愉快そうに双眸を崩した。
 ぎゅぅ、と抱きしめる腕を少しだけ自分のほうに引き寄せる。

「松」
「はい?」
「前は、美しーな」

 惚れ直したと告げる声は、心からの称賛と素直なものに満ち溢れていた。





もしも魔法が使えたら。