空には、降り注ぐかのような満天の星。
 夜空を彩るその光は、闇の中であってこその光だ。
 闇を裂く一つの点。
 それがそこかしこに散らばって、幾億もの輝きに満ち溢れているという、ある意味の奇跡の光景。

 そのひとつに手を伸ばす。

「綺麗ですねぇ」

 うっとりと。
 瞳を細めて、キミは呟く。
 伸ばした掌の先には、星。
 それに手を伸ばそうとしているのが見て取れて、微笑ましさに緩む頬を止めることができない。

「うん、綺麗だ」
「ですよね。なんだかここだけ別世界みたいで」

 伸ばされた手を閉じこめる。
 そこには何もないのだけど、閉じた手を胸元へと持ってきて、キミはそっと表情を緩めた。
 
 笑う顔を見るのが好きだ。
 キミの笑顔を見るたびに、まるで星屑のようにこの胸の奥の闇のなかで仄かに光るのがわかるくらいに。
 仄かな光りなのに、それはとても暖かくて、いとしい。

「街の中だと絶対に見れませんからね」
「人工の光で負けてしまうからね。実際にはそこにあるのだけど、人の目は光に弱いから」
「勿体ないなぁ」

 小さな溜息が、闇を揺らす。
 ここには他には誰もいなくて、何もない。
 ただ、互いの存在だけが側にある。

「………なんだか、逃げたくなっちゃいますね」

 そう言って、冗談めいてキミが笑みの声をこぼす。
 突然の言葉にボクは少しだけ驚くのだけど、すぐにそれは胸の奥でかき消えていくのがわかった。

「唐突だね」
「星空を見ていたら、何となく」
「キミにしては随分とロマンチックじゃないか」
「どうせ、いつものボクはロマンチックとはほど遠いですよっ」

 少しの毒は言葉遊びの延長のようなもの。
 笑みとともにこぼれ落ちる言葉の応酬は、けして不快なものを連れて来ない。

 キミの手を取って、そっと腕の中に抱き寄せる。
 ぽすん、と胸のあたりにキミの頭が当たったときに小さな悲鳴が聞こえたのだけど、聞こえない。聞こえない。

「…逃げちゃおうか?」
「……え」
「逃げちゃおうか、ボクと」
「ココさんと?」
「そう、ボクと」

 ずっと遠くへ
 どこか知らないところへ

 何から逃げたいのかは、わからないのだけど。ここではない、どこかへ。

 そう告げると胸のところでキミは吃驚したように息を呑む音が聞こえた。それから、小さく笑う声。

「………そうですね」

 あなたとなら、どこまでも。

 密事のような囁きは、星屑に溶けてしまいそうに思えた。






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