目を見張ったのは、似合わぬ花束を抱いていたせいなのかもしれない。

「松」
「はい」
「んだ、その花束」

 サニーが指さしたのを見て小松が苦笑を浮かべる。
 彼の手元には片手にようやく抱えることのできるほどの大きな花束がある。
 しかも、その花束はただの1種類の花のみで構成されているのだ。

 赤子の小指の先ほどしかないような小さな多弁の花片。
 それが幾重にも群れを成して一輪に咲いている。
 淡い黄色が、その合間からのぞく緑の茎と相俟って、1種類だけで作ったとは思えないような見事なコントラストを醸し出している。

「前が花なんて珍しー」

 そう言いながらサニーが花束のなかの花弁へと指先を滑らせる。
 ただ、あまりにも小さな花は、サニーの指先へと収まる前に近くにある花へと移動してしまうほどのものだったのだけど。
 
「なんだか綺麗だなって思って」
「へぇ?」
「ちょうど、食卓の上を飾る花を探していたから、ちょうどいいかなって」
「それでこの量かよ」

 飾るにはいささか買いすぎじゃないのか、と言外にサニーが告げる。
 まあ、食卓の上を飾るには確かに花が多すぎる。

「美しーけど、過度なもんは見栄えが悪い」
「わかってます。花は分けて、食卓に飾れなかった分は玄関とかに飾っておくつもりですから」

 サニーさんに言われなくても、そのくらいわかってますから、と告げる言葉が生意気で、サニーは触覚を使って小松をひょいっと持ち上げた。
 突然、足が地面から離れ空中に浮遊したことに、にゃー! といつもの特徴的な悲鳴を上げた小松に、サニーはおかしそうに笑ってみせる。

「サニーさん!」
「っるせ。松のくせに生意気なのが悪い!」
「ボクのくせにってなんですか!」

 まるでどこかのガキ大将のような台詞である。
 きっとサニーはそのことを知らないだろうから、小松は想像の中だけでガキ大将と彼をダブらせる。
 非常に失礼な想像だった。
 笑い出さなかったのは小松の気合いの賜物だろう。間違っても、想像などしてはいけない威力はあった。

 もー! と怒り出す小松を後目に、サニーはさっさと歩き出す。
 今日は昼食を御馳走になる約束を取り付けているのだ。
 こんなところで油を売っているのも美しくない。
 しばらくなんやかやと言っていた小松だったがサニーが全然取り合ってくれていないのを感じると、無駄な努力は諦めてされるがままに運ばれていく。

 片手には、黄色の花束。

 それを見つめ、こっそりと溜息をつく。

(……渡せないよねぇ…)

 渡せるわけがない。
 この花を選んだ時の、店員が微笑みとともに告げた言葉が小松の脳裏を過ぎる。
 それは、この花の『花言葉』。

 ちらりと視線を移すと、真っ直ぐに前を向いている花にも劣らないほどの美貌の人の姿。
 
 ……振り向いてくれたらいいのに、と思うのは、身に余る願いなのでしょうか?






たった一輪にいを託す
title:貴方へ贈る花に想いを託す・5題  GODLESS