天気は快晴。
降り注ぐ太陽は秋口特有の少し肌寒い風さえ心地よいものにかえるほどである。
「まあ、気持ち良いのはわかるんだけどな」
呟き、呆れ顔でトリコは目の前の光景を眺めている。
視線の先では腹ばいに横たわっているテリーの姿があった。
ただし、その表情のわかりにくい顔が少しだけ困ったようになっているように感じられる。
心象的に言えば「どうしようかな、これ」であろう。
テリーの背中。
というより、体を横切るようにして小松がテリーの体にのしかかっているのだ。
弛緩しきった体。
ちょうど背中のふわふわとした毛の部分に埋もれているせいか、心地よさそうな寝顔。
テリーの呼吸にあわせて小松の胸のあたりの部分が小さく上下しているのが、なんとも笑いを誘ってくれる。
トリコはその様子を眺めて、プッと小さく吹き出した。
テリーも普段は小松が安易に触れられないような位置を取るくせに(その上で、危険が迫ったら対処できるようにしている。それでは小松には伝わらないだろうに)、無防備な状態、あるいは意識のない状況になると途端に接近を許してしまうところがあった。
今の状況も、最初は座っていた小松が秋の陽気に誘われてこっくりと船を漕いでいたのをテリーが後ろにまわることで不測の事態に備えていたために起こった体勢である。
ついに睡魔に負けて後ろに倒れ込んだ小松を思わず助けてしまったテリーであったが、その後が問題だったのだ。
テリーの毛並みは言わずもがなの極上のタオルケットに比喩される。
ふわふわの毛並み。
暖かな体温。
それに眠り端の小松は縋ってしまったようで、背中から落ちた体勢からあっという間に俯せ(覆い被さり)に変えてしまったのだ。
その速さたるや、テリーが我に返るよりも早かった。
そして、テリーは動けなくなったのである。
くぅ、と小さく鳴く声がトリコに助けを求めている。
だが求められたほうはと言えば、楽しげに犬歯を見せて「駄目だ」と言うばかりだ。
「そのくらい、お前でなんとかしろ」
ちょっとした意地悪やからかいから出た言葉である。
そんなトリコの言葉にテリーは心なしか項垂れていた。
なんとかできないから助けてほしいのに、と言った感じであろうか。
項垂れたテリーの耳がぴくぴくと動く。
その耳が何かを聞き取ったようで、テリーが顔を自分の体に覆い被さったままの小松へと向けた。
むにゃむにゃ、と何事か呟いているようだが、それは寝言らしく言葉になっていない。
言葉にならない羅列が、なんていうかもう、呆れるくらいのもので。
テリーは鼻先を地面の上に投げ出されたままの小松の足へと近づける。
匂いを嗅ぐように息を吸うと、背中の上の小松が「うへぇ」と声を上げた。
起きないのは多分、それが脊髄反射のようなものだからだろう。
ぷは、とトリコがおかしそうに笑う。
テリーも、なんだかしょうがないなぁ、と言いたげに瞳を緩めていた。
その目が、まるで自分よりも小さな生き物……もし、いたのなら弟あたりか……を見守る時のような柔らかさを含んでいる。
「一応、そいつはオレと同い年だぜ?」
トリコの呟きに、テリーがくぅ、と鳴く。
「そうは見えないんだけどな」
笑うトリコは心の底から楽しげだった。
そんなトリコの顔を見るのも、悪くはない。
そう思ったかどうかは知れないが、テリーは上げたままだった顔を下げ、体を丸くする。
大きく揺れる尻尾が、眠り小松の服の上を器用に滑っている。
あれは、眠りにそのまま落とすためのものか、とトリコは思いながら欠伸をひとつ、噛み殺していた。
もふもふしたい。(されたい。)