空は鈍色の暗雲に包まれていた。
 針の雫のように天から降る幾つもの雨粒。
 陽がささない上に、雨のせいで秋口とはいえ大気に解ける気温はよほど低い。

「やみませんね」

 窓辺。
 窓を開けてその暗転とした空を見上げて小松がそっと溜息をつく。
 その溜息が白く宙に舞った。予想以上に気温が下がっているらしい。

「寒いよ、小松くん」

 そう言って小松の後ろからココが手を伸ばして窓を閉めてしまう。
 寒かったのだろうかと思い、振り仰ぐ小松にココは苦笑を浮かべた。

「秋の雨はあたらなくても体調を崩しやすくなるからね」

 自分が寒いとかそういうものではなく、小松のことを心配しての言葉だったようだ。
 それを感じた小松が、すみません、と謝る。

「ココは過保護だな」
「友人の体の調子を心配するのは当然のことだろう?」

 先の二人のやりとりを眺めていたサニーが茶々を入れてきた。ココはそれに表情を変えずに言葉を返す。
 もっとも、サニーは『友人ねぇ』となんとも含みを持った顔をしていたのだが、気にしては負けである。

「松もこっち来ればいいだろ」

 自分の言葉に引っかからないココに見切りをつけたサニーは、かわりに小松に視線を移す。
 こいこい、と手招きをされるのだが、されたほうの小松はと言えば渋い顔だった。

「こいって言われたって、ボク、そこ座る場所がないと思うんですけど」

 小松の視線の先。
 リビングの中央に陣取っているソファには、先のサニーとコーヒーとお茶請けの大量の菓子を口にしているトリコによって完全に占領されていた。
 
「二人ともでかすぎるんだよ」
「うるせ。オレはココよりは場所取らねーよ」

 やりとりは毒舌じみていたが、二人にとっては言葉遊びに近い。
 実際、側で聞いている小松やトリコも気にした様子はなく、前者は苦笑を浮かべ、後者は新しい菓子に手を伸ばしている最中だった。

「……って。トリコ! 前は食い過ぎだ! いつのまにオレたちのにまで手ぇ出してんだ!!」

 さっき分けたばっかりだろ! とサニーはトリコの指先に触れる寸前だったクッキーの山を触覚を駆使することによって死守する。

「いいだろ別に減るもんじゃなし」
「物理的に減るだろ! しかも瞬く間に!」
「あー……新しいの、持ってきましょうか…?」
「小松くん、トリコを甘やかすのはよくないよ。あいつはちょっと「待て」くらい覚えさせないと」
「俺は犬か!」
「犬のほうがまだ頭がいいよね」

 しれっと酷いことを言い放つココにサニーは腹を抱えて爆笑した。
 トリコはそれを苦い顔で見ているが、小松の援護はない。

 何も言わず、とにもかくにも新しい菓子を準備しなくてはいけない、とキッチンに向かうところだったからだ。
 
 しょうがないなぁ、と言いながらココがそれを手伝いに向かう。
 サニーも、松のつくしー姿を見に行くか、とソファから立ち上がるところだった。
 その前に部屋の隅に置いてある果物の山をトリコに幾らか渡してやるのも忘れない。
 トリコは渡された果物を手に、上機嫌にそのひとつにかぶりついた。

 こんな雨が降る午後も、たまには悪くない。






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