食べ物が美味しい季節になりました。
 
 とは言っても、季節に応じた食材によって食べ物は旬を通じて幾らでも美味しいものというのがあるのだが、それはまた別の話。
 今の季節は果物がよく比喩の表現に出される。
 甘い蜜をたっぷりに含んだ林檎。
 瑞々しい色に染まった葡萄。
 少し苦みがあるが、その分、甘みが濃厚な柿。
 他にも数え切れない種類があって、そのどれもがとても、美味しい。

 ………………美味しい。
 それは、よくわかる。
 とてもよくわかる。
 わかるのだけど、

「…トリコさん」
「おう」
「その……これはいったい、どういう状態なんでしょう?」

 小松の呟きに、トリコは何だお前そんなこともわかんないのか、となんだか呆れ顔だった。
 いや、呆れ顔をしたいのはどちらかというと小松のほうなのだが。

「何って、見りゃわかるだろ。果物」

 そう言ってトリコが示すほうには美味しそうな果物たちが並んでいる。
 普通の果物のみならず、グルメ食材と呼べるものまであるのはさすがの一言につきるだろう。

「だ、だからって、なんでこんなにいっぱいあるんですか!」

 ただし、量が問題だった。
 机の上に天井近くまでどっさりと積み上がった果物の数々。
 ひとつ取ったらそこから崩れ落ちるんじゃないかと思うほどの量だった。半ばピラミッドである。

「いや、なんか食いたくなって」
「なんか〜っていう次元の量じゃないですよ! あ、あ、テリー、下のほうから取っちゃ駄目! 崩れる、崩れるから!!」

 今まさに無謀にもそのピラミッドの一番下の段から果物のひとつを失敬しようとしたテリーに小松は急いでストップをかける。
 
 止められたテリーは不服そうに、くぅん、と鳴いた。
 鳴かれたってしょうがない。トリコなどはまだいいが、もしこの果物が崩れ落ちてきたりして運が悪かったら小松など埋まってしまう。

「それになんでボクのとこに…」
「ああ、これでなんか適当に作ってくれ」

 ああやっぱり、となんだか小松は脱力した。
 作るのは嫌ではない。
 美味しいと食べて貰えるのだって、嬉しい。

「これでも量は減ったんだぜ?」
「これで!? っていうか元はどれだけあったんですっ!?」
「んー…部屋がいっぱいになる程度には」

 あっさりと言い切った話が恐ろしい。
 トリコのいつも食べる量から言えば正常(恐ろしいことに、正常だ)なものなんだろう。
 ただ、それだけ食べればさすがに飽きるんだろうなということは小松にだって予想はついた。

 美味しいと言っても、甘い果物ばかり。
 いくらなんでも、味に多少なりの変化は欲しいところ。

「……………はぁー」

 溜息をつき、小松は傍らに置いていたエプロンを手に取る。

「じゃあまずは、簡単なアップルパイから作りましょうか。パイシートも、冷凍してあるのがありますから」

 そう告げるとトリコの顔に喜色が浮かぶ。
 横にいるテリーも、表情はわかりにくいが尻尾をぱたんぱたんと動かし始めていた。
 その、なんともおかしいこと。

「おう、頼む!」
「そのかわり、皮むきは手伝ってくださいよ?」
「まかせとけ、パティシエ」

 はい、と返事をして果物の山へと小松は向き直り、手始めとばかりに真っ赤な林檎へと手を伸ばしたのだった。






奮闘開、五秒前。