聞こえてくる、小さな声。
 夜の闇。
 虫や、眠る闇の音。
 そんな中、まるで消え入るような、宵闇に溶けてしまいそうなくらい小さな声が聞こえてきた。
 途切れ途切れに紡がれる旋律。
 空気にちぎれてしまいそうなくらいだ。

 その声に導かれるようにうっすらと目を開ける。
 冴え冴えと光る月の下。
 すっかり寝入っていると思っていた小松が半身を起き上がらせ、月を見上げていた。
 自分の髪の一房を手にとって、指に絡ませているのは無意識なのかどうかはわからない。
 あれが自分の触覚のひとつだということ、小松は忘れているのだろうか。
 だがその仕草は変わらないまま、その口元が小さく動いているのが見えた。
 そこからこの音が紡がれているのだということに、ようやく気づいた。
 
 聞こえていないと思っているのだろう。
 紡ぐ声は、まるで夢のなかのように辿々しく、指でなぞるように旋律をたどる。
 それは、どこか遠くを思わせる声だった。
 ここではないどこかへ思いを馳せるような。
 ここにはいない誰かを思わせるような。
 そんな誰かの優しく、甘い匂いを思い起こさせる、唄。

 人恋しさを煽る声。

 うたを聞かれていることを知らないからこその歌声だろう。
 起きるのも躊躇われ、邪魔をすることも美しくないと感じて、再び目を閉じる。
 瞼を閉じても、まだ声は聞こえてくる。
 小さく、小さく、誰のためにでもなく、声は響く。

 それを聞いていると、うとうとと眠たくなって閉じていただけだったはずの瞼に、少しずつ重みが増し、意識が遠くへ引いていく。
 淵へと誘われるなかで、思い出す。

 このうたは、子守歌。

 人恋しさを煽り、そして誰かを包み込む、歌だ。
 そして意識は優しい音色に包まれていった。






眠れないに響く声。