視線が痛い。
 とにかくジーッと見つめられているのがわかる。
 見ないようにと意識的に視界に入れないようにしているのに、刺さるかと思うくらいの強い視線が自分に注がれていることがよくわかった。
 
 調理中の姿を眺められるということは、別にないわけではない。
 職業をコックとしている小松ならそれは尚更のことだった。
 プライベートでも、トリコやココは勿論のこと、「つくしー…」とウットリとして呟いてくれる(そして小松は盛大に照れる)サニーの視線も、あったりするわけなのだし。
 しかし、今回の視線はまた意味合いが違っていた。
 今回の相手は、何しろ『よくわからない』種類のものだった。
 小松との接点はほとんどなかったと言っても良い。
 そして何より、話が通じない。
 言葉が通じないとか話を聞いてくれないとか、そんな次元の問題ではない。
 文字通りの意味で、話が通じないのだ。

 こちらに向けてくる視線の強さに根負けした小松が、ちろり、と顔を上のほうへと振り仰ぐ。
 その視線の主は、感情の読めない瞳で小松を見つめている。
 複雑な色合いの毛並みに覆われた尻尾と翼が、ゆらゆらと宙を舞っていた。

「………………うわぁ…」

 小松が振り仰がなければならない相手。
 しなやかな筋肉に覆われた巨躯。
 長い尻尾と、翼。
 肉食獣を思わせる鋭い牙が並んだ口元。
 だが、その瞳は本能に任せるままのものではなく、知性を思わせる光を宿している。
 その目が、ジーッと小松を見つめていた。
 パンサーを思わせる豹柄の毛。
 ハイアンパンサーと、確かその名が呼ばれていただろうか、と小松は記憶をたぐり寄せる。
 リッキーと、呼ばれていたことも。

「……り、リッキー…?」

 なんとなく気後れしながら恐る恐る名前を呼んでみる。
 信じられないほどの巨躯の持ち主でもあるリッキーは、その大きさからは考えられないような優雅な動きで小松のほうへ鼻先を近づけてきた。
 ただ、近づいた分だけその信じられないような大きさに小松は身を竦ませる。
 いや、まあ、今まで信じられない大きさの動物たちには会ったことはあるのだが、ハント中などをのぞいて、そんな機会になど合えというほうが酷なのだ。

 テリーやキッスも大きいが、リッキーはそれらを上回って大きい。
 小松は、食べられたら一口なんだろうな、と心の中で思った。
 実際、その大きな口は小松など一呑みであろう。
 ただ、リッキーは何か告げたそうな目で小松の顔を覗き込んでいる。
 言葉が通じない上に、テリーやキッスと違って接する機会の少ないリッキーの心情を読み取るのは、難しいことであった。

 ことり、と小松は首を傾げた。
 それに合わせるようにリッキーも首を傾げている。なんだかその仕草が猫を思わせて、小松はプッと吹き出してしまった。

 なんだろう。怪獣みたいに大きいのに、可愛い。

「えっと……ボクに何か用?」

 笑いの衝動を堪えながらも小松は問いかける。
 リッキーは視線を動かした。
 その動いた視線の元へ小松も顔を動かす。リッキーの視線の先にあるのは、自分の手元。

 視線の先を確認した小松は、ええと、と言葉を濁した。どう反応を返していいのかわからないからだ。
 さらに動かした視線を元に戻し、リッキーが小松を見つめる。
 その目が、なんとなくねだるような光を讃えているのが見えるのは、小松の気のせいだろうか?
 散々迷った末、小松は心を決めた。
 だいたい、今の状態をそのままにしておこうというのも難しい。

「…リッキーも、食べる?」

 小松の手元にあったのは、新作スイーツの試作品だったアイスクリーム。
 秋に相応しいものを、という題材で作られた色とりどりのそれ。
 今、小松は第一ビオトープの研究所の一角にある研究室にいたのだ。
 珍しい食材が手に入ったから遊びに来ないかという所長からの申し出や、遊びに来たらいーし! とそれに便乗した猛獣使いの心遣いによるものだが、研究室とは思えないような大きな室内でアイスクリームを作っていた小松の元へ、リッキーがやって来ていたというのが今回の顛末である。

 小松の申し出にリッキーが尻尾をゆらゆらと揺らめかせ、嬉しそうに顔全体で笑った。
 言葉を理解したのはさすがとしか言いようがない。
 ただ、その笑顔が顔全体が口なんじゃいかと思うくらい、大きく口を開いての笑みで小松は呆気に取られる。
 怖さというより、なんていうか、その顔が、可愛くて。

 じわじわとくるかわいさに小松は思わず笑顔を返した。



 その後、約束通り(?)リッキーにも小松の作った新作アイスクリームが振る舞われることになる。
 ただ、それを発見したリンが、ずるいずるいと大騒ぎしたり。
 テリー、キッス、リッキーの三者の間でちょっとしたトラブルの火種が産まれたりしたのだけど。

 それはまた、別のお話だ。






『規格外のモノに対してフラグを立てやすい程度の能力』。