夜中に、目覚めることがある。
 睡魔に誘われて眠りにつき、体も休息を欲しているのはわかるのにそれでも、真夜中にぱちり、と目が覚める。
 もそもそと体を動かすと、草を踏む青い匂いと土の匂いが鼻の奥をついた。
 そうだ、と眠る前のことを思い出す。
 今日はトリコたちとハントにやって来ていたのだ。今夜は、早朝にしか出ないというグルメ動物を捕まえるためにこうして野宿しているわけで。
 思い出しながらあたりを見回し、思わず笑みがこぼれ落ちる。

「………なんで車座になってるんですか」

 見ると四天王(−1。いつか残りの一人にも出会うことが出来るだろうか)の三人が上と左右で眠っている。
 頭を向けて眠っていると言ったほうがいいだろうか。
 そういえば、眠りに落ちる前に四人で美食談義に花を咲かせていたことを思い出す。
 サニーとトリコの間で意見の相違で口喧嘩が勃発したり、それをココが素知らぬふりで油を注ぐ真似をするものだから、最後には小松のほうが可笑しくて爆笑してしまった。
 お腹まで抱えて笑い出す小松を見て、三人ともその喧嘩は止めにしてくれたのだが。
 その最中に眠りに落ちてしまったようだ。
 そう思いながら上半身を持ち上げ、さらに視線を巡らせる。
 視線の少し先のほうで、テリーとキッスが火の番をしているのが見える。
 とは、言っても二匹とも眠り端に入っていて、丸くなっているのがわかった。
 それでも、バトルウルフとエンペラークロウというある意味、地上と空での強さを誇る二匹が、眠っていたとしても敵の侵入に気がつかないわけはない。
 その奇妙なまでの安心感。
 小松は、ありがとう、と空白の声をもらす。
 聞こえたかどうかはわからない。むしろ、寝ているのだから聞こえないほうがいい。
 それでも、テリーの耳がピクピクと上下に動くのが見えて、これ以上は何も言わないほうがいいかな、と思いながら視線を元に戻す。
 トリコ達は静かなものだった。
 豪快な鼾をかいていそうなトリコも、ハントをしている最中ではいっそ、死んでいるんじゃないかと思うくらい静かに眠る。
 わざわざ猛獣に、自分が寝ています、ということや、居場所を教えないということもあってのことだろう。
 それでも、普段の猛獣も裸足で逃げ出す(たまに煩さで側にいるテリーも逃げ出している)鼾をかくトリコを知っている小松にとっては、どこか新鮮だ。
 ココとサニーは言わずもがな、と言ったところだろう。
 そんな三人の姿に視線を落としていると、ふと、風を感じて空へと振り仰ぐ。

 天にあるのは星だ。
 降り注ぎそそいできそうな、幾億もの星の輝き。

 綺麗だなぁ、と思って目を細める。
 今にも落ちてきて、掌の上に落ちてきそうだった。

「……小松」

 そうして夜空を眺めていると、名前を呼ばれて小松が我に返る。
 ハッとして振り向こうとしたところで、横合いからぐい、と引っ張られた。
 驚く間もなく、ぽすん、と柔らかく……は、ない。筋肉質でもたれ掛かるには少々固い感触がした。

「こら、サニー。小松くんが驚いてるじゃないか」
「別にいーだろ?」

 目を丸くしていると、自分の下と後ろのほうからさらに声が聞こえてくる。

「すみません、起こしちゃいましたか?」

 声をひそめて三人に問いかける。
 すると、横から(つまり小松の眠っていた元の場所の上のあたり)トリコが、ああ、と答える。

「気にすんな。元々、眠りは浅かったしな」
「動く気配を感じると覚醒しちゃうからね」
「ま、美食屋(オレら)にとっては必要最低限のスキルだし?」

 気にすることねーぜ、とサニーの手が、ぽんぽん、と小松の背中のあたりを叩く。
 
「ごめんなさい。目が覚めちゃって、つい」
「あー…あるな、そういうの」

 同意してくれるのがなんとなく嬉しくて、小松は笑い声をこぼす。
 なんで笑ってんだ、と問うサニーのほうも、笑い声で胸のあたりが細かく震えているのが肌越しに伝わってくるのがわかる。
 すると、残りの二人もつられるように笑みに空気を揺らした。

 その感覚が、たまらなく胸を満たす。

「おらおら、まだ朝は遠いんだからさっさと寝るぞ」
「だね。これで明日、起きれないなんてことになったら元も子もない」
「りょーかい」
「はい」
「その前に、お前は小松を離せ」
「ヤだ」
「サニー」
「いーじゃん。けちけちすんなよ」

 小声で交わされる言葉のやりとりがおかしくて、小松はついに吹き出した。
 夜は遠くて、朝もまだ来ない。

 それでも、なんだかここは暖かいな、とそんなことを思って笑っていた。






は数多。は遠淵。