秋の長雨は冷たい。
 それでも冬に比べたらまだマシなのだが、あちらは気概が違う。寒い中、冷たい雨が降るのは当たり前で、防寒対策など幾らでもある。
 けれど、秋はまた話が違ってくる。
 夏の陽差しがぼんやりと残る日中。
 涼しい風。
 夜と朝になれば長袖が必要になるくらいに冷え込みもある。
 そんな、どうにも過ごしやすいのだけど中途半端な、秋の中頃。
 秋は深まり、ゆっくりと冬への準備をしていく最中の雨というのは、冷たい。

 ざぁざぁと朝からずっと雨が降り続けている。
 この雨では出かけようという気にもなれず、小松は窓辺の大きなガラスに寄りかかりながら溜息をついた。
 白い息が窓ガラスを丸く曇らせる。
 それを指先でごそごそと拭いた。

「本当は今日、買い物にでも出かけようかと思ってたんだけどなぁ」

 今日は休日だった。
 だが約束も予定もない休日というのは退屈というのが相場が決まっている。
 予定はないが何か買いに出かけようかと思っていたところで、出鼻を挫かれてしまったのだ。

 部屋の簡単な掃除は粗方すませてしまったし、洗濯物はこの雨では乾くわけがない。
 一人の食事は簡単なもので腹を満たし、今はポットから紅茶を注いで、時間を潰している最中だった。

「暇だな……もう、寝ちゃおうかなぁ…」

 また溜息をひとつ、ついた。
 ああ、こんな溜息なんてついて、しかも何もせず寝て一日を無闇に潰そうとしているだなんて、あの人が知ったら「美しくない!!」と叫ぶのが目に見えてきそうだった。
 実際、想像してしまって、小松は苦笑を浮かべる。

 想像して思い出したのだけど、彼は今、何をしているんだろうかと思う。
 生業にしている美食屋という筋で考えるなら、ハントだろう。
 雨のなかするのかと問われれば、雨の降っている地域というのはここだけかもしれないのだし、他のところも同じように雨だとは限らないわけで。
 それとも、彼の言うところの美しいものを探しに行っているのか。
 あるいは、
 もしくは、

 そう考えて、はたと自分が彼のことを考える時間が増えたなぁ、などと小松はぼんやりと思った。
 まあそれだけ鮮烈な印象を与えてくれたのが、彼という存在だ。
 一度親交を深めれば忘れるのは容易くない。

 あのキラキラとした、という言葉がもっともよく似合う彼の姿を思い出し、小松は笑う。

「そうだ。どうせなら新作料理の試作でもしようかな……美容に良くて、美しい見た目、かぁ…」

 それもまた新しい創作料理のジャンルだな、とこぼし、手を打って立ち上がった。
 脇に置いていたカップとポットを手に、台所へと歩いていく。

 いくつかの試作用の食材が常備してある冷蔵庫の中を思い浮かべながら、どういう組み合わせがいいだろうかと考えるのも、楽しい。
 ああ、退屈なはずの長雨の休日が、変わる。
 これもここにいない人のおかげか、と思い、小松は思わず笑い声をもらす。

 
 もしこれがうまく出来たなら、あの人に一番に食べてもらいたい。
 今日の感謝を、込めて。







上手な間の潰し方。